大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P196

 春風や人形焼のへんな顔


 街の雑踏の中で孤独になりたいときは浅草に行く。そして、かならず立ち寄るのが人形焼の店。甘い匂いと共に焼き型から人形焼ができあがる。人形町の人形焼は七福神だが、浅草のは、観音様や雷神? 儒学者文人石の顔にも似ているのだ。どの人形焼も微笑を浮かべたへんな顔。見るほどに心が和む。同時作〈鳩と遊ぶだけの浅草あたたかし〉のように浅草を歩きながら心ゆくまで孤独感を味わった。人形焼のようにへんな顔で。 (『清涼』)