大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P202

 冬草や夢みるために世を去らむ


 昭和五十二年、子宮筋腫の手術のときに受けた輸血が原因でC型肝炎になった。肝炎ってエイズの一種でしょ。感染しないかしら? と聞かれたり、色々な差別も受けた。他人を傷つけずにすむには自分の世界に閉じ籠るしかなかった。しだいに、夢を見ることが生きる支えとなっていった。
 あれから三十数年が過ぎた。慢性肝炎になり死を意識しながらの日々ではあるが、〈夢うつつ野分の蝶を追ひもして〉のように相も変らず、俳句という蝶を追いかけている。死生観というほどではないが、夢の続きを見るために死ぬのだと、私は思っている。 (『清涼』)