号外 たのしい編集-7

「たのしい編集」の「第二章 DTP」、尼ヶ崎和彦さんのinterview「熱いぞ、これは」のつづきを読んでみよう。


「本の行方」
和田 ところで、尼ヶ崎さんがイメージする編集者像とは?
尼ヶ崎 私のイメージでは、編集の仕事っていうのはコーディネーター、あるいはコンダクターかな。企画もそうだし、撮影もそうだし、ディレクションもそうだし、印刷、製本ふくめて、トータルな視点と幅広い知識がなければできないことです。自分ではやらない、できないところも、すべてわかっている。そういう編集者が優秀なんだと思います。印刷に関していえば、紙のことをよく知っていたり、こんな印刷はできるのか、こんな製本は可能かと聞いてきたりもする。幅広く、いろんな分野の知識を持っていなければできませんね。
和田 最近では、ゼネラリストよりもスペシャリストが重宝されているらしいけど……。
尼ヶ崎 実際にやるか、やらないかは別として、全部できる人が優れた編集者じゃないでしょうか。アートディレクションは俺がやります。カバーデザインも俺がやります。写真は俺が撮ります。文章も俺が書きます……極論かもしれませんけど。そういう編集者って、最近いないですよ。10年くらい前から会ってないかもしれません(笑)。
和田 それで思い出した。「ロッキング・オン」を発行している渋谷陽一さんがどこかで書いてましたが、彼が他社の雑誌からインタビューを受けたとき、担当編集者、コーディネーター、カメラマン、ライターがぞろぞろ来たので驚いたそうです。なぜ一人でやらないんだと。金がかかって大変だろうって(笑)。
(中略)


尼ヶ崎 自分の分野をしっかり持ち、そこからはずれない。そういう出版社はやっぱり息が長いですね。出版は夢を売ってるんですよ。つくる側も読む側も、まあ斜め横から多少のお手伝いをしている我々も、そんな想いを持っている産業なのかな。
(中略)


和田 これから電子書籍がどう浸透してゆくかが大きな話題になってますが、僕はもう年寄りだから、紙の本にかこまれて余生をおくろう、と思ったりして(笑)。
尼ヶ崎 私もそうですけど……個人的見解でいうと、印刷する本はなくならないけど、もっと価値が出るかもしれませんね。部数は大幅に減るでしょうが、たぶん、紙の本の価値は高まるんじゃないかと。10年後には、一万円の定価でも、それなりに売れるんじゃないかって思っているんですが。
和田 尼ヶ崎さんから見て、これから編集者に求められることは、なんでしょうね。
尼ヶ崎 やっぱり、自分がつくった本を伝えたい、読ませたいっていう強い熱意じゃないでしょうか。そういう想いでつくった本は、かならず残る。きっと、読者に伝わると思う。そういう本だったら、私は損得勘定ぬきでお手伝いしたいですね。
和田 熱気がばりばり、あるいは静かに放出している本。
尼ヶ崎 熱いぞ、これは、みたいな(笑)。そういう本がどんどん出てきてほしいですね。
                       (二〇一二年十二月十九日 談)