2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

コート 7

黒眼鏡の作家が、婦人物のコートに目をとめた。 それは、黒のゴム引きのコートで、袖も身頃もばかにタップリしていた。コートというより長めのポンチョで、試着してみるとまるで大烏のようだった。 「これ、ください」 「婦人物ですが、よろしいですか」 ハ…

ブルゾン 3

渋谷鶯谷町の大旦那T氏が、釜本次長にいった。 イタリー製のアボンというメーカーの白の麻のブルゾン(フランス語。英語でジャンパー)をすすめたときのことだ。 「わたしはジャンパーがほしいのであって、ブルゾンだなんてしゃれたもんはほしくないのです。…

ブルゾン 2

ある日、山口瞳先生がひょっこりと来店された。見ると、黒い革のブルゾンを着ておられた。 先生、いいブルゾンですねえ、とおもわず口走ってしまった。 「これ?」 と、先生はご自分の胸のあたりをのぞき込むと、 「これ、エルメス」 と、ポツンといわれた。…

ブルゾン

白いふさふさのぬいぐるみとおもったのは、猫だった。目のパッチリとした白いペルシャ猫が、4、5匹いた。いったん猫とわかってみると、もうぬいぐるみには見えなかった。猫は、ひとの顔を見て、またミャアと鳴いた。きっと、うさんくさいやつだとおもったに…

コート 6

その邸の応接間はとても広かった。夏なら、庭に面したガラス戸が大きく開け放たれて、青く広がる芝生の草いきれをたっぷりと吸い込むことができただろう。しかし、ぼくがそのお宅を訪問したのは冬だったので、芝生も枯れ草色をしていた。 宝塚に入った上のお…

コート 5

ぼくは、おもわず、へー、とおもった。それも3回、別の日にである。 まず最初は、山口瞳先生だった。脱がれたコートをハンガーに掛けようとしたら、衿の内側に付いているメーカーの織りネームが眼に入った。「アクアスキュータム」。イギリスのメーカーで、…