2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧
稲村ヶ崎 レインコートがふんわり 空から降ってきた。 田村隆一のレインコートだ。 黄金の酒の匂いがするもの。 つまんでみると 諧謔と疲労で よれよれになった 詩神が レインコートの中で 気絶していた。 ああ、詩神よ 酒神と結ばれてはいけませんよ。 熟れ…
駅 桐の咲く風景が 見たくてあの日は 遠まわりして 学校に行く途中だった。 桐は駅ごとに 淡い紫の花を 咲かせていた。 電車がT駅に着くと あの人がぶらりと 乗ってきた。 そばに行こうとしたら あの人はひとりではなかった。 当惑して本を読みだした わたし…
巣箱 あなたが日本に いらしたら 地図に書いた あの森の巣箱を 見て下さい。 巣箱には いつも心を病んでいた 女の詩集と 骨が入っています。 まだ こおろぎは 鳴いていませんが 巣箱のあたりは 木や草が霞み 水音が聞こえているでしょう。
ミイラ遊び わたしたちに 禁じられた 遊びなど ひとつもなかった。 それなのに わたしたちの 遊びといったら 全身にシーツを巻きつけ ゴロゴロと アトリエの床を 転がる ミイラの遊び。 うまく転べなかった方が さよならをいう ミイラの遊び。 今も 遊んだと…
青ざめた夏 それぞれの夏がやってきた。 二六歳と 二四歳と一九歳の夏が。 この夏も わたしたちは 悪夢を見るのだろうか。 世界の片隅に 呪われた血で 繋がれている 迷い子。 空に置きざりにされた 昼月のように もろく危うい 迷い子たち。 青ざめた夏の 一…
冬/新年 夢の入口 野水仙猫は狩の眼してゐたり 冬靄の猫の喉より潮騒音 雪が雪追ふ犬ホテル猫ホテル 極月の猫を走らす長渚 猫抱いて夢の入口さがす冬 捨て猫に青く灯れる聖樹かな 汝は猫科寒い吾は霊長目ヒト科 (な/わ) 猫にくる葉書一枚石蕗の花 (つわ)…