2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

続・らんぶるの家事

らんぶるで火事があった日、ぼくは高校時代の友人たちと待合せをしていた。久しぶりに会って一杯やろう、と誘われていたのだ。 待ち合せ場所は、以前1度だけ行ったことのある小さなバーだった。新橋の烏森口にあったような気がする。183センチの大男、辻本が…

らんぶるの火事

ぼくらが入社してすぐ、らんぶるが火事になった。 ぼくらというのは、ぼくと有金君で、らんぶるというのは、ソニー通りにあった石造りの古い喫茶店のことである。 音楽喫茶といっていたが、なにしろ古ぼけており、うっかりしていると足もとをねずみが駆け抜…

足もとを見る、という言葉があるけれど、はいている靴を見られることがある。外国のホテルなんかではけっこう顕著だそうで、この場合、靴がふところ具合のバロメーターになっているのである。イタリーでは、きちんとした服装をしていかないと、レストランで…

立原正秋先生

立原正秋先生は、スポーツシャツに丸いつばのあるピケの帽子をかぶってみえた。 箱をあけると、仕立券付きのワイシャツ生地がはいっていた。 ちょうど4階のホールで展示会をやっていたときで、鎌崎店長は立原先生をエレベーターに乗せて4階におつれした。 会…

課長になった頃 その3

新谷さんは真っ青になった、と、その場にいた事務所の愛原さんが、すぐに教えてくれた。新谷さんの手は、ふるえて、とまらなかったのよ。 その日から、新谷さんはぼくと同じ電車に乗らなくなった。ぼくに対しては、仕事で必要なときしか話さなくなった。店長…

課長になった頃 その2

ぼくが課長に就任したのは、有金君が突然退職してすぐのことだった。ぼくがつられて辞めることを懸念して、とりあえず肩書きをあたえておこう、と会社が考えたフシがある。だが、ぼくはべつに有金君が辞めたことで、動揺などしていなかった。「課長」などと…

課長になった頃 その1

ぼくは週刊誌も月刊誌も読まないから、週刊新潮の山口瞳先生のエッセイ「男性自身」もダイレクトに読んでいたわけではなかった。ときたま、お医者の待合室で、暇つぶしに手に取ることはあったけれど。たいてい、単行本になってから、ゆっくりと読むことにし…