2005-05-01から1ヶ月間の記事一覧

アナグラム 1

厚川昌男という名前をご存じでしょうか。あつかわまさお。ご存じない? では、あわさかつまお、はいかがですか? こちらはすぐおわかりですね。泡坂妻夫。第103回直木賞受賞作家です(「蔭桔梗」1990年新潮社刊)。 これはアナグラム、文字の綴り替えといい…

東京日記その2

幼女は、雪の日に外へ出た。 東京にしてはめずらしく降り積もって、雪ダルマくらいはできそうだった。しかし、幼女はまだあまりにも小さかったので、雪ダルマのように大きなものをこしらえるのは、とうてい無理だった。 幼女は、お盆の上に雪を固めて、ウサ…

東京日記

台風が去ったあと、バス通りの向こう側の、川に面した一帯が水につかっていた。バス通りから向こう側に下る道は、途中から水にもぐってしまった。 幼女は、水着に着替えて、浮き輪を持って坂道をおりて行った。にごった水が、風に揺れている。幼女の顔は、パ…

鎌倉会長とスーツ

ぼくが学生のころは、アイヴィ・ルックが全盛でした。高校のとき、放課後、受験を控えた上級生の補習授業に参加させてもらうと(それくらい勉強家だったこともあります)、机のなかに上履きのスニーカーがはいっていて、右のかかとにVAN、左のかかとにJYNと…

藤山寛美さんのシャツ

藤山寛美さんの公演が新橋演舞場であったとき、当時の松竹の支配人さんが、お礼にワイシャツをプレゼントすることになった。秘書のSさんがぼくをひいきにしてくれていたので、それで推薦してくれたのかもしれない。 藤山先生は白しかお召しにならないからそ…

I氏とその女性

I氏は、ちょっと若いときの仲代達矢に似ていて、背が高く、からだもがっしりしている方だった。胸のあたりまでシャツのボタンを外しているので、胸毛が見える。アルコールが入ると色白の顔が真っ赤になったが、胸毛のはえた白い胸まで赤くなった。この仲代達…

M君と釜本次長

「M君ていたでしょ?」 釜本次長がいいました。 「いっしょに外商に行って、ホテルに泊まったとき、顔を洗おうとしたら、洗面台にいっぱい水が張ってあって、コーラの瓶が何本もつけてあったの」 そういいながら、宙をみつめました。 「そのときは、シングル…

M君との引継ぎ

入社してすぐ、4階の倉庫に案内してくれたのは、M君でした。M君は、倉庫に入ると、すぐ鍵をかけました。 「こうしておかないと、突然だれが入ってくるかわからないから」 そういって窓をあけ、デコラの事務机の上に腰をおろすと、タバコを吸いはじめました。…