2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P28

枯れいろのなき淋しさや菊の武者 菊人形は、菊の花や葉が萎れると菊師が新しいものを補充するのだろうか。いつ見ても白や黄や紅などの菊で美しく飾りつけされている。それは、菊細工であり見世物としての菊人形の宿命か。枯れることを許されない菊人形がさび…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P26

式服の絹たよりなき秋つばめ 友達の結婚式に出席するため、絹のドレスを着た私に母は「貴女はいつお嫁に行くの?」と聞いた。「そのうち、桂さんと結婚するかもよ」と冗談で好きな木の名前を言ったつもりが、母は桂という名の男性だと勘違いしてしまったのだ…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P24

かなかなやある日は帰る道変へて 三十代の頃、仕事の激務から開放されてひとりになりたいときは、いつもの道を帰らずに寄り道をした。 あるとき、公園のベンチでかなかなの鳴き声に聞き惚れていた。そして、かなかなが恋人だったらいいなと思った。クールに…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P22

麦の髭揺らす雀や誕生日 俳句を作りに麦畑へ行くと、一本の穂麦を揺らしている雀が目にとまった。嬉々として麦の穂と遊んでいる姿は微笑ましい。ときどき、こちらを見ては鳴いてくれる。その日は私の誕生日。なんだか雀に祝福されているようで心が和んだ。 …

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P20

栗の花置くここちして土用灸 祖母の腰にお灸を据えるのが小学生の私の役目だった。色や形が乾いた栗の花のようなもぐさ。小さくちぎって丸めたもぐさを祖母の腰の上に五つほど並べ、線香の火を点じる。すると、燃えながら煙を立てるもぐさは小さな小さな狼煙…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P18

蝦蛄売のふらり来る街稲妻す まだ小さかった頃、母が「そろそろ蝦蛄売のおじさんが来るわよ」と言うと、かならずおじさんは現れた。 魚籠をのぞくと、青灰色や薄みどりの蝦蛄が元気に飛び跳ねている。私なんか、たった十二年しか生きていないのにもう疲れ果…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P16

眠たやさ寒禽和紙の微音して 眠気を催すとか、睡魔に襲われる、という経験はあまりない。不眠症なのでいつもぼっとしているが、ぼっとと眠気とは違う。せめて俳句に詠んでみたかった。 雀や野鳥の飛ぶときの音は、和紙をこすったときの音がする。ことに、寒…