大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P24

 かなかなやある日は帰る道変へて


 三十代の頃、仕事の激務から開放されてひとりになりたいときは、いつもの道を帰らずに寄り道をした。
 あるとき、公園のベンチでかなかなの鳴き声に聞き惚れていた。そして、かなかなが恋人だったらいいなと思った。クールに別れられそうだし、短命だから、美しい思い出だけを遺してくれそうだ。思い出に生きるのも悪くない。三十代の女性がひとりで缶ビールを飲みながら妄想に耽るって不気味? (『山の夢』)