2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

長谷川一夫先生

長谷川一夫先生がいらしたとき、それをきいた値札付けのおばさんの川中島さんは、色紙がなかったのでノートを切り取って、あわてて事務所からとび出してきた。そして、店の裏口から入ると、試着室のカーテンのかげからそっと様子をうかがった。 ぼくは、長谷…

七村さん

6階の倉庫には七村さんというおじさんがいて、荷物の梱包や商品の整理をしていた。 七村さんは、出社すると、すぐに作業着に着替えた。白いワイシャツに黒いズボンで、それなら、出社したときとぜんぜん変わらないように見えた。 「だから、ばかだっていうん…

大将

フジヤ・マツムラの創業者は、社員から大将と呼ばれていた。 京橋界隈にあった旧い左官屋さんの息子で、子どものころから勉強が大嫌いだった。本をひろげると、頭が痛くなったそうだ。 昔は、家を継ぐ長男以外は奉公に出るのが普通だったから、たぶん小学校…

続・先輩としてのぼく

その後輩の名前は、もう忘れました。 安西水丸さんの髪型を、村上春樹さんの頭に取り替えたような顔を想い浮かべてください。それで、服装はトラッドです。なかなかにおしゃれでした。 彼、でもいいのですが、かりにキティちゃんと呼んでおきます。 キティち…

先輩としてのぼく

ぼくは、後輩に威張ることもしなかったし、いじめることもなかったとおもう。しかし、ぼくがそうおもっているだけで、後輩たちが実際にどうおもっていたかなんて、知るよしもない。 これが先輩の場合は、立場が逆だから、なにかをいいつけたり、やらせようと…

僧玄奘の話し

益州とは、中国西南区四川省蜀の称である。 唐の時代、ここに空恵寺という寺があり、のちに三蔵法師とたたえられる僧玄奘が、病めるインド僧とここで出会い、看病のお礼に短い経を口授された。 玄奘は、真摯に仏教の勉強に励んでいたが、瑜伽論にどうしても…