2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

一枚の繪の竹田厳道氏が、椅子に腰をおろして脚を組まれた。真新しい靴が眼に入った。その靴は、柔らかそうな革で、赤ちゃんに履かせる靴のような形をしていた。 「新しいお靴ですね」 竹田氏は、うん、といって自分の靴を眺めてから、 「医者がね、竹田さん…

ショール

一枚の繪の竹田厳道氏は、いつも上機嫌だった。赤ちゃんのようなピンク色の肌が、お風呂上がりのようにサッパリとしていた。二枚目だったが造作が大きく、ポンチ絵に描くならば、ちょっとたれ目の大きな眼と、肉のついた高い鼻、それに立派な大きな耳を強調…

靴下

一枚の繪の竹田厳道氏は、とてもおしゃれだった。 ひと口におしゃれといっても、一朝一夕になれるものではない。湯水のようにお金をつかって、幾度も失敗を重ねて、ようやく身につくものである。失敗を恐れて、チマチマしたお金のつかいかたをすれば、チマチ…

ハンドバッグ 27

岸谷先生のお宅では、立て続けにご両親がなくなられた。母上は長く臥せった末に、父上は入退院をくり返して短時日のうちに、この世を去られた。その後すぐ、お嬢様が離婚された。性格の不一致が原因、と岸谷先生はいわれた(「やっこさん、虚脱状態になって…

番外編2 除夜の鐘

『ぼくが入社した時分は、年末は31日の夕方6時ごろまで営業していた(昭和52年当時のことです)。』と、2006年の年末に書いたことがある(2006-12-24「おおみそかの思い出」参照)。同じ章に、次のようなくだりがある。 『夕方、鎌倉の会長(先代の未亡人で…