2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

銀座百点 号外83

少女は、居たたまれない素振りで、 「また、来ますわ」 と言い残し、灰白色の建物の陰に消えた。後を追おうとしても、少年は走ることができない。ゆっくりとベッドまで辿りつき、布団の中に潜った。布団を頭からかぶった。 そして、暗い中で呟いた。 「ああ…

銀座百点 号外82

少年は、ようやく一人で歩けるようになった。 骨のまわりの肉は、すこしも増えない。ゆっくりと、すこしずつ、いまにも倒れそうな危うさで歩いてゆく。均衡が崩れかかると、少年は立止り、だらりと下げた両腕の手の甲をぐっと上に反らせる。そうやって、均衡…

銀座百点 号外81

「布団の国」の王様どころか、白く乾いた地面の上に投げ捨てられた死体のように、少年は自分を感じた。そして、白い布団のひろがりの上に横たわっている、骨格だけになっている自分の躯を見まわした。 少年は、自分一人の力では、起き上がれなくなった。 (…

銀座百点 号外80

ぼくは、吉行淳之介のターニングポイントは腸チフスだといった。その体験がなければ、相変わらず素直な優等生で、優秀な同級生たちといっしょの道を歩んだ筈である。 ここに、「童謡」という作品がある。題名を忘れていたので、探し出すのに苦労した。ぼくは…

銀座百点 号外79

二代目というと、私の場合においては当然文士の二代目ということになる。ところが、かなり大きくなるまで父親の正体が分らなかった。父親とは時折家に戻ってきて、わけも分らず怒鳴り、またいなくなる迷惑な存在であった。この気持は、中学五年生になっても…

銀座百点 号外78

人間にはだれにでも、人生におけるターニングポイントがあるようだ。吉行淳之介の場合は、十六歳のときの腸チフスがそれにあたるとおもう。ここで一年留年して、五年生を二度くり返すことになったが、しかし、もともとおそ生れを早生れとして届け出てあった…