2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-rain maker』

rain maker 鎌倉の駅を降りると小雨。 濡れながら谷戸を歩く。 こぶしの花が雨に煙ぶっている。 夜、こぶしの花が 蝶となって吹雪くんだ。 一緒に見よう と男が囁いたことがあった。 日本脱出の 夢ばかり 見ている男だった。 隧道に入ると 母の胎内さながら …

大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-老醜』

老醜 二十歳のわたしは 悲しみを水栽培の アネモネのように育てていた。 三十歳のわたしは 不自由さを虫のように 心の地下室に飼っていた。 歳月はいろいろなものを 飼いならす。 わたし自身まで。 四十歳をすぎたわたしは 小さな怪物を飼っている。 この怪…

大木あまり詩画集「風を聴く木」『2-流星』

流星 渚に打ちあげられた 荒布が濡れている。 (註:あらめ) 愛しあった あとのように 流木は男の匂い。 貝殻は女の匂い。 流星は死人の匂い。 男と女。 生と死。 波に打たれても 溺れることのない浮標。 (註:ぶい) 愛に溺れることのない心。 交わること…

大木あまり詩画集「風を聴く木」『2-姉へ』

姉へ ひなげしの 花束に 致死量の 毒があるなら ひなげしの サラダを食べて 死ぬのもいい。 食べてしまいたいほど 愛する あなたを 失ってしまったから。 思想も 理想も 宗教も 倫理もない 二十五歳の 女にできることは 愛をコピーすることだけ。

大木あまり詩画集「風を聴く木」『2-油絵科C組』

油絵科C組 男のモデルを はじめて描いた。 つい わたしの 視線はモデルの股間にいってしまう。 若い男のものは 水仙か菖蒲の 蕾みたいだと 思っていたのに。 タラコみたい。 本で見た地球を担いで いる男のものは 無花果の葉っぱから はみだしそうに 生き生…

大木あまり詩画集「風を聴く木」『2-沈黙』

沈黙 あなたに逢ったのは ペット・ショップだった。 あなたは ヒマラヤンに 見惚れていた。 猫が好きですか と言う僕の質問に 答えず 薄暗いところで なくことも忘れている 小鳥たちの方へ 行ってしまった。 僕は見た。 あなたがそっと籠の 小鳥たちを 逃が…

大木あまり詩画集「風を聴く木」『2-my room』

my room わたしの部屋は 黒猫のなかにある。 窓は猫の二つの眼。 ベッドは ピンクのやわらかい舌。 鏡は猫のハート。 わたしは黒猫になって歩く。 黒猫になって恋する。 黒猫になって攻撃する。 黒猫の爪はわたしの武器。 誰も侵入できない my room でも世界…