大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-rain maker』

  rain maker


鎌倉の駅を降りると小雨。
濡れながら谷戸を歩く。
こぶしの花が雨に煙ぶっている。


夜、こぶしの花が
蝶となって吹雪くんだ。
一緒に見よう
と男が囁いたことがあった。
日本脱出の
夢ばかり
見ている男だった。
隧道に入ると
母の胎内さながら
風が吹いていた。
隧道は眠りを誘う
くらさと懐かしさがある。
ここに美男の
幽霊が出るそうだ。
でも入口に
「痴漢に御用心」
と書いてあったが
「幽霊に御用心」と立札には
書いてなかった。
隧道を出ると
雑木山が霧を吐いていた。


霧がどんどん海へ流れてゆく。
雨の日はなぜか全身がだるい。
英語で雨男のことを
rain makerというのだそうだ。


逢えなかった幽霊も
実朝も
きっと雨男だったのだろう。