2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

綴じ込みページ 猫-75

誤解を解く前に、山口瞳先生と高椅義孝教授との関係を、山口瞳随筆集「旦那の意見」(昭和五十二年・中央公論社刊)に見てみよう。タイトルは、「高橋義孝先生の酒」。 高橋先生と一緒にお酒を飲んでいると、非常に、なにか、こう、気の楽な感じがある。そう…

綴じ込みページ 猫-74

九州大学教授でドイツ文学者だった高橋義孝は、百間先生と親交が深かった。高橋氏は、銀座のフジヤ・マツムラの名簿にも名を列ねておられたが、ぼくはお会いしたことはなかった。きっと、その昔、山口瞳先生とお見えになったのだろう。 先年、といってもずい…

綴じ込みページ 猫-73

「涙雨のなか、ノラは帰らず」のつづき。 その一方で彼は、世にも精巧な日記をつけている。日付、曜日につづいて、天候、暖房の有無を欠かさない。失踪の日の「夕方から雨になり夜は大雨」には、大きな意味がある。濡れるのがきらいなノラは、夕方の雨で帰り…

綴じ込みページ 猫-72

「作家の猫」の「内田百間とノラ、クルツ」には、こんなキャプションのついたビラも載っている。「近所の学校に通う子どもたちに渡すため、新仮名遣いで書き、謄写版刷りにしたビラ。親切なニコニコ堂文具店に置いてもらった。」 みなさん ノラちゃんという…

綴じ込みページ 猫-71

吉行淳之介が見た最初のビラ(チラシ)は、朱色の筆で枠が引かれている。たしかに荒いタッチである。「猫ヲ探ス」という文字は、大きな活字で組まれている。 猫ヲ探ス その猫がゐるかと思 ふ見當は麹町界隈、 三月二十七日以来失踪す。雄猫、毛並は 薄赤の虎…

綴じ込みページ 猫-70

吉行淳之介「前言訂正」のつづき。 その日、三和土に落ちた広告ビラの中に、私に眼にとまった一枚の紙片があった。真白い紙に墨色の活字が並んでおり、朱色の枠でその文面を囲んであった。その枠は毛筆の荒いタッチで描かれてあって、大売出しの広告ビラとは…