2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P58

郭公や少年の家は竹の中 竹林の中に少年が住んでいた。彼が作った小屋には一匹の柴犬と二匹の黒猫。家族はそれだけだった。農家の手伝いをしながら自活する少年の唯一の楽しみは、化石のかけらをあつめること。疲れるとスティングのCD「セット・ゼム・フリー…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P56

ほうたるを双手に封じ京言葉 俳人の中村堯子と蛍を見た夜のことが忘れられない。あの夜、堯子は両手で摑えた蛍を薄い和紙に包んで私に渡してくれた。和紙から透けて見える青白い光は神秘そのもの。冷ややかな光を放つ美珠のような蛍。蛍火の美しさを際立てて…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P54

秘めごとや鬼雲となる夕焼雲 秘め事というほどのことでもないが、初心者の頃から山川蝉夫のファンだった。当時の日記を読むと、〈きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり〉という彼の一句が書きとめてあり、その脇に小さな文字で「私がいるからだいじょうぶ」とだけ…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P52

三人の晩餐蜘蛛に見られけり 「この句は、具体的には、あまりと夫、当時同居していたあまりの母という三人の夕餉に想を得たものと思われる。が、『見られけり』と感受した瞬間、日常的光景が非日常の色彩を帯びた。……三人のかすかに緊張した関係も窺われるの…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P50

若葉冷え罪を問はれてゐたるかに 私が第二句集『火のいろに』を上梓した頃、母は俳句への情熱を失いつつあった。気になって「私が俳句に本腰を入れたからって安心しないで、自分のために俳句をやってね」と言うと「心の中で沢山作ってますよ。句集ができるく…