2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

市川さんの話 4

市川さんが芦田さんの誘いにのらなかったのは、いつか自分も一国一城の主になろうとおもったからです。鶏口となるとも牛後となるなかれ。そんな青雲の志が生きていた時代の話です。 有名になった俳優は、市川さんの作ったシャツで映画に出ました。撮影のとき…

市川さんの話 3

市川さんの少年時代のことを話しているとキリがないから、すぱっと割愛しましょう。 高校を卒業しようとしている市川さんがいます。とくに進学は考えませんでした。そのため、すでに銀行に就職が決まっていました。 市川さんにはお兄さんがいますが、どうも…

市川さんの話 2

市川さんのお父さんは、職人たちが出征したあと、陸軍の兵隊たちのシャツを作っていました。丸首の下着のようなやつです。それで招集は免れたのですが、仕事をしていると、よく憲兵が何人かでやってきてはいやがらせをしたそうです。 「貴様は、兵役にも出な…

市川さんの話 1

戦争が終ったとき、市川さんは小学6年生でした。 はじめに疎開したのは、静岡だったといいます。それまでは、家族といっしょに青山の家で暮らしていました。 戦前、市川さんの家には、住み込みの職人さんが20人くらいいました。お父さんがシャツ職人の親方だ…

看板職人 市川さん 序章

手もとにある「ヨーロッパ退屈日記」は、昭和49年8月10日新装版第一刷です。 「新装版あとがき」に、「山口瞳さんのお世話でこの本を出版することができた。十年前のことである」とあります。もともとの本のあとがきの日付は、1965年3月1日になっていて、伊…