2016-12-01から1ヶ月間の記事一覧
アトリエ ひまわりの巨大な 頭ばかり 描いていた彼が いつからか わたしを描きだした。 わたしの身体を キャンバスにして。 好き勝手に 描きなぐり できた傑作といえば 「堕落」と題した マリア像。
すみれ草 恋の話ばかり 女はしたがる。 未来のことばかり 男は話す。 シェリー酒の壜は もうからっぽ。 アンティークな鏡に 夜が映っている。 わたしといえば 杉の根っこに 凍えて 咲いていた すみれ草の話ばかり。
遺書 ある夕暮れ。 ひと塊の氷となって わたしは死んでいるでしょう。 生きるために 必要のない 悲しみばかり 厚いコートのように 着ていました。 やっとコートが脱げます。 わたしにも春がきたのです。 なんと感傷的な夕暮れ。 最後に見るものは みんなきれ…
風を聴く木 アポリネールは 猫と理解しあえる 友達がいれば 幸福だといった。 しかし 幸福の似合わぬ 女は、愛を知ると いつも逃げる。 逃亡者のように。 逃げて 逃げて 疲れ果てて 振り向くと 樹海だった。 女には 吹く風が 水や炎の 音に聴こえた。 やっと…
野の梅 野の梅が散る。 アフリカでは 飢えた子らが 梅の花の匂いも知らず 乾いた頰に 蝿を鋲のように 貼りつけ 見つめ合っているだろう。 遊びを忘れ 指をしゃぶってばかり いる子らのそばに もう肉体とはいえない 父や母が 枯木となって 佇ちすくんでいるだ…