2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ハンドバッグ 10

ショウウインドウは、店の顔である。そこに飾られた品物を見れば、その店のすべてがわかる。 その女性は、入り口のドアをあけると、スッと入ってきた。そばにいた有金君が、咄嗟に、いらっしゃいませ、と声をかけた。 「あの、ウインドウのバッグ、見せてち…

ハンドバッグ 9

フジヤ・マツムラの社長が持っていたのは、ゴヤールというフランス製のバッグだった。織物のような生地で、黒とグリーンと金茶の3色で「Y」という文字を組み合わせてあり、ちょっと杉綾柄のようにも見えた。持ち手とパイピング部分には黒い革が使われていた…

ハンドバッグ 8

電通のT氏(2008-05-11「ネクタイ 6」参照)は、スタスタと店のなかに入ってくると、店内をぐるりと見まわした。そして、入荷したばかりのヌメ革のバッグに目をとめた。そのバッグは、手提げの旅行鞄で、鞄屋の伊藤さんが、試作品です、といって2個持ちこん…

ハンドバッグ 7

ドアをあけて飛びこんできた年輩の女性が、そばにいた砂糖部長にいった。 「グッチのバッグ、ちょうだい」 砂糖部長が答えた。 「奥様、グッチはお隣です」 「ここでは扱ってないの? 気がきかないわね」 年輩の女性が、店内に一瞥をくれから出て行くと、砂…

ハンドバッグ 6

神田淡路町に、昔、箱屋さんがあった。小田部氏(仮名)といって、古くからの顧客だが、日本橋高島屋に帳合があって、買い物はほとんど高島屋のほうでされていた。 ぼくが高島屋2階特選にあったフジヤ・マツムラの支店に出向すると、すぐに呼び出しがかかっ…

ハンドバッグ 5

山口瞳先生に「新東京百景」という1冊がある。昭和63年2月に新潮社より刊行されて、ぼくもすぐ買って読んだ。もちろん、初版本である。しかし、この本は、有金君にあげてしまった。山口先生の本は、一時はすべて初版で持っていたが(「血族」までだったかも…