2006-04-01から1ヶ月間の記事一覧

赤岩さん その3

ある日、赤岩虎治氏(仮名)がみえて、婦人物のショールをプレゼント用に買われた。カシミヤとシルクプリントを重ね合わせた、和装でも洋装でもできるショールで、たしか10万円くらいの値段だった(昭和50年代半ばのことです)。 「ちょっと、ちょっと待って…

赤岩さん その2

ワイシャツの注文を受けたとき、有金君はワキグリをゆったり楽にするよう、申しつかった。それで、袖付けがすこし大きめに出来ていた。ところが、ピカ一洋服店(仮名)のほうはそんな指示を受けなかったので、普通の大きさに上着のワキグリを仕立てていた。…

赤岩さん その1

赤岩虎治氏(仮名)は株屋さんだった。 株屋といっても、証券会社の社員ではない。株の売買で利益をあげて生活する人である。当時は、そういう株屋さんがずいぶんいて、けっこう羽振りがよくて、みなさん銀座でもいい顔だった。 赤岩氏は、有金君の顧客だっ…

梅ちゃん 最終回

梅ちゃんが睡眠不足で、店で接客しながら居眠りをするようになった。立ったまま、とろんとした眼をしていたかとおもうと、いつの間にか眠っていて、ときどき、生返事をする。お客様も、とつぜん、ああ、そうなんですかあ、なんて返事をされたら、ちょっとび…

私の辞書

いつも手もとに置いておく辞書は、「岩波国語辞典第二版」(註1)です。これでたいてい間に合います。もしこれに載っていない言葉があれば、「広辞苑」(註2)に当たります。こちらは第一版で、その後たくさんの言葉が補訂され、その都度版をあらためていま…

梅ちゃん その4

ぼく、梅島、殴りますから、さきにいっておきますけど、けっして止めないでよね」 と、真剣な表情で有金君がいった。 「なんで?」 と、ぼくはききかえした。 「あいつ、最近、たるんでるっておもいませんか? 遅刻はするし、お使いに行ったら、鉄砲玉みたい…