2010-02-01から1ヶ月間の記事一覧

彫刻 9

I先生は、東京造形大学彫刻科の客員教授だった。東京造形大学は、八王子にある。最寄りの駅は相原駅で、そこからスクールバスが往復している。 ある年の秋、I先生から電話で相原駅まで来るようにいわれた。 約束の時間前に相原駅に着いて、駅前のロータリー…

彫刻 8

新宿区のT先生のお宅の一角には、三階建てほどの広いアトリエがあった。もちろん、天井まで吹き抜けで、大きな彫刻を制作するにはもってこいだった。 アトリエの一隅にも応接セットが据えてあり、気の置けない来客はここで面会するようだった。 その気の置け…

彫刻 7

I先生に、お弟子さんはいらっしゃるのですか、とたずねた。 「弟子は持ちません。必要なときは、大学院の学生に手伝わせています、助手として」 I先生は、眼は笑わずに、笑って答えた。 「先生の跡継ぎは、いらっしゃらないのですか?」 「いません。息子は…

彫刻 6

阪神淡路大震災のとき、神戸の魚崎にアトリエを移したばかりのI先生は、家が倒壊して閉じ込められてしまった。天井と床のあいだにできた狭い空間を、はいずって出口にむかったが、太い柱や梁がじゃまをして出られなかった。 どうしよう、とおもったとたんに…

彫刻 5

I先生が傘を買いにみえた。 フジヤ・マツムラでは、傘といったら、イギリス製のFOXしか置いてなかった(2005-01-30「20世紀FOX」参照)。 「こんどは、マラッカの柄にしようかな」(マラッカというのは籐のこと。生産地だから。籐の柄は軽くていい) I先生は…