2014-01-01から1年間の記事一覧

綴じ込みページ 猫-183

手もとの「熟語本位英和中辞典」(齋藤秀三郎著・岩波書店)は、旧字・旧仮名で書かれている。この辞書は2冊目で、1991年10月8日新増補版第38刷発行と奥附にある。はじめて購入したのは高校時代の1966年のことだが、その当時だって(いや、その当時のほうが…

綴じ込みページ 猫-182

今夜はクリスマス・イヴイヴです。 いつか詠んだ句に、こんなのがある。二句対です。 天に星地に猫のゐるクリスマス 飛行船 主よパンと身寄りなき猫ありがたう 同 ミーヤとあけくんとぼくと、三人でイヴイヴを祝う。暖かい部屋でハーゲンダッツ・アイスクリ…

綴じ込みページ 猫-181

前回のつづき。 遺族の方ばかりでなく、不肖の弟子の私とても、生前の師を思えば、旧漢字、旧仮名づかいを守り抜きたい気持である。しかし、戦後の漢字、仮名づかいの変遷は急速であって、それに馴れた青少年の人たちにも、できるだけ多く百間独特の名作に接…

綴じ込みページ 猫-180

お断わりするが、引用するからといって、ぼくが中村武志さんの僭越を承服しているわけではない。その反対である。若い読者が旧字旧仮名になじめないというなら、総ルビにすればよいだけである。現に、ぼくなんかだって、(まだサルだった)高校一年のとき、…

綴じ込みページ 猫-179

1990年に岩波文庫の一冊として、内田百間作「冥途・旅順入城式」が刊行された。手もとの本には、11月16日第一刷発行とある。新字・新カナである。解説は、種村季弘。なるほど、とおもわず膝をたたいてしまう、痒いところに手がとどいた解説である。 解説が終…

綴じ込みページ 猫-178

石川淳の「五十音図について」も、そろそろ終りである。 「今の世、萬葉風をよむ輩は、後世の歌をば、ひたすらあしきやうに、いひ破れども、そは實によきあしきを、よくこころみ、深く味ひしりて、然いふにはあらず。ただ一わたりの理にまかせて、萬ツの事古…

綴じ込みページ 猫-177

石川淳「五十音図について」のつづき。 この月報の狭い場所では、わたしはかなづかいひについて仔細に説くことができない。ただ一言いつておく。新カナがいけないといふのは、なによりもそれが不便だからである。新カナに依れば、すなはち五十音図に反すれば…

綴じ込みページ 猫-176

石川淳の「五十音図について」は、くどいようだが正字正仮名である。 宣長のかずかずの仕事の中でも、於乎の所属を決定して、五十音図の完全な形式をたたき出したことは、国語学上たぐひなき功績である。この功績は過去のことではない。今日じつに然り。見よ…

綴じ込みページ 猫-175

岩波書店版「石川淳選集」第十四巻に「五十音図について」という文章が収録されている。もちろん、本文は正字正仮名である。 冒頭に、本居宣長の「うひ山ふみ(ソ)」が掲げてある。 五十音のとりさばき云々。これはいはゆる仮字反シの法、音の竪横の通用の…

綴じ込みページ 猫-174

一九六七年に、四人の文学者が連名で共同声明を発表した。「文化大革命に関し、学問芸術の自立性を擁護するアピール」というのがそれである。四人とは、川端康成、三島由紀夫、安部公房、そして石川淳だった。 ぼくは、まだ、石川淳を読んでいなかったから、…

号外 定年プラスワン-2

某日、銀座の天廚菜館で食事会があった。古矢元顧問の傘寿のお祝いと社員の慰労を兼ねて、山城社長がポケットマネーでご馳走してくれたのである。古矢元顧問は相変らずエネルギーのかたまりのようであり、夫人はチャーミングだった。 会の終わりに、まず、今…

号外 定年プラスワン

先日の句会で、ぼくは「愉しみは猫と俳句と墓参」という句を提出した。案の定、採ってくれたのは、あまり先生ひとりだけだった。ま、極私的な内容だから無理もないけれど。 ぼくは、うっかりしていたが、気がついたらジジイになっていた。おもうに、浦島太郎…

綴じ込みページ 猫-173

旧かな派の小説家と新かな派の小説家を数人ずつ選んで、双方のいい分を聞こうとおもう。旧かな派のほうは、言葉としては正統だから、いくらでもいる。しかし、新かな派のほうは、ただ新かなで書いているというだけで、はっきりと新かなの効用を述べたものが…

綴じ込みページ 猫-172

小西甚一「国文法ちかみち」のオマケ「〈余論〉表記法のはなし」の最初に掲げられた「(一)古代特殊仮名づかい」は、国文学をこころざしたり、古代語で書かれた文献を解釈しようとする人には必需品だが、せいぜい俳句を読んだりこしらえたりするのには、無…

綴じ込みページ 猫-171

小西甚一「国文法ちかみち」のオマケ「(三)現代かなづかい」のつづき。 日本語は、あまり遠くないうちーーおそらく百年以内ーーに、ローマ字書きになるよりほかないだろう。百年前のことを考えてみたまえ。行灯から石油ランプ、さらに電灯、蛍光灯とかわっ…

綴じ込みページ 猫-170

小西甚一「国文法ちかみち」オマケ「(三)現代仮名づかい」のつづき。 世のなかには、現代仮名づかいと表音的仮名づかいとを同じに考えている人が多いらしく、どうして「現代仮名ずかい」と書かないんですかと質問されたこともしばしばだし、大学で国文学を…

綴じ込みページ 猫-169

さて、小西甚一「国文法ちかみち」オマケの「(三)現代仮名づかい」を見てみよう。 「池袋で乗りかえてね、王子へゆくつもりだったんだが、何をぼんやりしていたのか。大塚へゆく電車に乗っちまってさ。齢のせいかな。」 このばあい、もしこの人が駅名の表…

綴じ込みページ 猫-168

小西甚一「国文法ちかみち」のオマケ「(二)歴史的かなづかい」のつづき。 ところが、十七世紀のあとの方、つまり元禄時代に、契沖がいろいろ研究した結果、定家仮名づかいでは多くの点で平安時代中期より前の用例と合わないことを確かめ、和字正濫抄(わじ…

綴じ込みページ 猫-167

小西甚一著「国文法ちかみち」のオマケ部分「〈余論〉表記法のはなし」は、四つの章に分かれている。 (一)古代特殊仮名づかい (二)歴史的仮名づかい (三)現代仮名づかい (四)送り仮名の使いかた ここで特に大事だとおもわれるのは、(二)の「歴史的…

綴じ込みページ 猫-166

「国文法ちかみち」という本が本棚にある。ぼくが受験生の頃に使った参考書である。著者は、小西甚一。出版社は、洛陽社。もう一冊、同じく小西の「古文研究法」が並んでいる。どちらも昭和四十三年の発行で、「国文法ちかみち」は重版定価300円、「古文研究…

綴じ込みページ 猫-165

猫の額ほどの庭の草むしりをする。 草をむしりながら、先日のそろり会(句会)のことを思い返した。そして、ひとりでくすりと笑ってしまった。 食卓に猫と葡萄とパリ日記 飛行船 ぼくが提出した句である。兼題は、「葡萄」。 あまり先生は、評をしてくださっ…

綴じ込みページ 猫-164

芸者衆のことを、猫という。三味線を弾いて芸をするから、三味線の皮からの連想かもしれない。その芸者衆には、東京でも京都でも、むかし、ずいぶんお世話になった。 墓参りから戻って、さて、昼寝でもしようかな、とおもったとき、電話のベルが鳴った。最近…

綴じ込みページ 猫-163

角川「俳句」九月号に、大木あまり先生と村松友視さんの対談が載っている。題名は「猫と俳句のいい関係」。『猫踏んぢゃった俳句』刊行記念対談、と副題がついている。 『猫踏んぢゃった俳句』は、村松友視さんが角川「俳句」に連載したエッセイを一冊にまと…

綴じ込みページ 猫-162

でもって、変哲小沢昭一巨匠の最初の句。昭和四十四年一月。 スナックに煮凝のあるママの過去 水仙に猫がじゃれてる2DK 空風や鮒佐本日休みにて 寒月や地下鉄工事秋田辯 ゲバ棒の落ち目の春のにが笑ひ 通夜の音の越後なまりや雪女郎 そして、最後の句。平成…

綴じ込みページ 猫-161

名優小沢昭一のために書かれた戯曲「芭蕉通夜舟」(井上ひさし)を坂東三津五郎が演じたのは、もう二年前のことか。そろり会(句会)の有志にくっついて、ぼくも新宿紀伊国屋サザンシアターに見に行った。三津五郎さんには気の毒だが、小沢昭一っつあんで見…

綴じ込みページ 猫-160

白石正人句集「わかめご飯の素」(「冬 winter」)のつづき。 こころみに足袋履いてみる男かな 向ひから外つ国人の礼者かな 寝ねがてに年賀はがきを読みかへす 牛日の乗り放題の切符かな (牛日:一月五日) どんど焚く縄は縄なる形して かにかくにをろがむ…

綴じ込みページ 猫-159

白石正人句集「わかめご飯の素」から、いよいよ「冬 winter」。 神無月山から鶲やつて来て (鶲:ひたき) 水鳥に水門開く冬運河 オリオンや鉱石ラヂオからザザザ 牛鍋を唄ひたくなるまで喰らふ 鰭酒や恋は強火であぶるべし 海鼠から海鼠うまるる夜の生簀 冬…

綴じ込みページ 猫-158

白石正人句集「わかめご飯の素」(「秋 autumn」)のつづき。 栗の毬硬し祭礼始まれり 吾亦紅代役の子の颯爽と 栗の木の下に糞あり鹿の秋 口笛を吹けぬ少年赤まんま 黒葡萄目玉のやうな重さかな 軒下の古提灯や今年酒 二人ゐて素直になれる櫟の実 秋の水代は…

綴じ込みページ 猫-157

白石正人句集「わかめご飯の素」から、「秋 autumn」。 落蝉の鳴きつくしたる軽さかな 蜩や日のあるうちに終るバス 鰯雲どこに行くにも草履かな 虫売りの虫の音だけくださいな 発掘の土戻しゐる残暑かな 二等星三等星や揚花火 人は皆死ぬと言ふけど木歩の忌 …

綴じ込みページ 猫-156

白石正人句集「わかめご飯の素」(「夏 summer」)のつづき。 杜鵑鳴いて樹雨の落ちにけり サムシング・グレート万緑に在り 海岸通りバーガー店の金魚草 夏の月大胆なことやりさうな 今日からはただの友達ビール注ぐ 臍凉し表彰台のアスリート 河鹿鳴く私は…