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 手もとの「熟語本位英和中辞典」(齋藤秀三郎著・岩波書店)は、旧字・旧仮名で書かれている。この辞書は2冊目で、1991年10月8日新増補版第38刷発行と奥附にある。はじめて購入したのは高校時代の1966年のことだが、その当時だって(いや、その当時のほうがもっと)旧字・旧仮名の辞書は使いづらかった。後年、俳句なんかにかぶれて旧仮名づかいに心を砕くようになるなんて、だれが想像しただろう。


 正直に白状すると、俳句の書式は旧仮名づかいでも新仮名づかいでも、どちらでもいいとおもっている。好きなほうを採用すればよいのである。新仮名派の強いバックアップがないのがなんだが、それは石川淳の論にあきらかで、新仮名の生い立ちがご都合主義の産物だったのだから、弁護の余地はない。しかし、物事には既成事実ということがある。できちゃった婚も結婚である。できちゃった仮名づかいを認めないのは、かえって不便である。といって、安易に、旧字・旧仮名で書かれた作品を、新字・新仮名にあらためてもよいことにはなりませんので、お間違えなく。


 でもって、現代仮名づかいの俳人の句をいくつかあげて、今年はこれでおしまいです。


    号泣やたくさん息を吸ってから
    じゃんけんで負けて蛍に生まれたの
    ピーマン切って中を明るくしてあげた
    こっちこっちと月と冥土が後退る
    本当は逢いたし拝復蝉しぐれ
                  (「ベスト100」池田澄子ふらんす堂