2009-08-01から1ヶ月間の記事一覧

コート 27

「だって、コートは2枚しかないっていったんだもん」 半べそをかきながら、砂糖部長は車に乗った。碧南市のO氏から紹介された、名古屋郊外の会社社長のお宅をおいとましたときのことだ。 自動車外商にまわると、ときとして、顧客からめぼしい友人や知人を紹…

コート 26

「キリマンジャロは雪に覆われた山で、高さ一万九千百十フィート。アフリカの最高峰だ。頂上の西側に豹の死体が横たわっている。こんな高所に何故豹がやってきたのか、誰にもわからない」(和田誠『物語の旅』フレーベル館・2002年刊から引用) この一節は、…

号外

「海老沢は正統的な散文を書く。彼はこみいった事情を、それについてまったく知らない相手に、詳しく、わかりやすく、そしてすばやく伝達することができる。彼の叙述は明晰で、彼の描写は鮮明である。彼はずいぶんややこしい事柄を、もたもたした口調になら…

コート 25

そのお二人は、ぜんぜん似ていないのだが、なんとなく似ていなくもなかった。 山口瞳先生は、替え上着のときは、ショートコートをはおることが多かった。それに、かならずハンチング(鳥撃ち帽)をかぶっておられた(山口先生は、自嘲的に、禿げ隠し、といわ…

コート 24

フジヤ・マツムラの近所にルパンというバーがあった(註、フジヤ・マツムラはなくなりましたが、ルパンはまだあります)。文壇バーと呼ばれており、戦後すぐのころ、織田作之助や太宰治がこの店のカウンターで撮った写真は有名である。 いずれもカメラマンは…