大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」おわりに
大木あまり全著作再録のおわりに
最後に掲載した「シリーズ自句自解1 ベスト100」(2012年3月・ふらんす堂刊)は、大木あまり先生が第一句集「山の夢」(1980年6月・一日書房)から読売文学賞を受賞された第五句集「星涼」(2010年9月・ふらんす堂刊)までの作品のなかから、百句選んで解説を付けた自選句集です。これを読めば、俳人の作句の裏側や方法論がちょっぴり垣間見られるかもしれません。
なお、句集「星涼」のあとに、第六句集「遊星」(2016年10月・ふらんす堂刊)が上梓されました。しかし、出版されてまだ日が浅いことを考慮して、ここでご紹介するのは控えることにいたします。書店で一冊でも余計に購入していただけるほうが、書肆も作家もよろこばしいにちがいありません。
そのため、全著作再録とうたいながら、1冊欠けています。すべて揃わないほうがむしろよろしい、といにしえの賢人がいっておりますので、小人にいささかも不満はありません。よしとします。 以上
大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P194
青き菜に光のうごく二月かな
一人で吟行するとき、飯田蛇笏の〈おりとりてはらりとおもきすすきかな〉を頭にインプットさせて家を出る。今日こそ、この芒の句のように季語そのものを詠んだ句を作るぞ! 苦手な一句一章を克服すべく、日夜、いや、吟行のときだけでも努力しているのだ。「はらりとおもきすすきかな」、さらりと詠んで芒の本質に肉薄している。どうしたらこう詠めるのだろう。目指せ蛇笏! 目指せ一句一章! そう心に念じながら水菜畑に迷い込んでしまった。光あふれる青き菜に幻惑され、またもやこんな句が……。蛇笏への道は遠い! (『清涼』)
大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P192
頬杖や土のなかより春はくる
地中から芽を出した蕗の薹を籠に摘む。花茎の淡い緑黄色はいかにも早春の色だ。それが済むとこんどは、小松菜の収穫の手伝いだ。小松菜を畝から引き抜く。すると、土の匂いとともに春の息吹がした。
昼食のあと、頬杖をついていると、小松菜の種を蒔いた日、土の中の種たちに芽吹きをうながすおまじないをしたことを思い出した。効果覿面、そればかりか、種たちは春まで連れて来てくれた。土に触れる生活を送っていると、あと五十年生きられそう。 (『清涼』)