大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P192

 頬杖や土のなかより春はくる


 地中から芽を出した蕗の薹を籠に摘む。花茎の淡い緑黄色はいかにも早春の色だ。それが済むとこんどは、小松菜の収穫の手伝いだ。小松菜を畝から引き抜く。すると、土の匂いとともに春の息吹がした。
 昼食のあと、頬杖をついていると、小松菜の種を蒔いた日、土の中の種たちに芽吹きをうながすおまじないをしたことを思い出した。効果覿面、そればかりか、種たちは春まで連れて来てくれた。土に触れる生活を送っていると、あと五十年生きられそう。 (『清涼』)