2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P70

飛火野の草萌え髪の伸びにけり 草萌えの頃の飛火野を歩いた。命あるすべての物が生の息吹を漲らせる春。春に髪の毛が伸びると感じるのも、ごく自然のことなのだと納得した。そこで、万葉の歌人・額田王気どりで詠んだ。他にも地霊の力を借りて〈草萌えに鹿の…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P68

猫眠亭と名付けてよりの朴落葉 我が家を猫眠亭(びょうみんてい)と名付けてから三十年が経つ。この家を初めて見に来たのは、五月の雨の降る日だった。買い物もバスで行くような不便な土地で生活できるかしら? その不安を払拭してくれたのが隣の雑木山に咲…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P66

白菜を洗ふ双手は櫂の冷え 冬の晴れた朝、白菜漬を作ろうと思った。それには、白菜を洗って干さなければならない。庭の洗い場で、水道の蛇口をひねり白菜をざぶざぶと洗う。白菜にあたる水しぶきが雨音のようで心地よかった。だが、時間が経つにつれ、冷えき…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P64

木枯や菊子夫人の菊づくし 北原白秋夫人の葬儀は、木枯の吹く寒い日だった。長兄の代理として参列したものの、菊子夫人と面識のなかった私は話しかけて下さる方々と会話がすぐにとぎれてしまう。仕方なく、借りてきた猫のように静かに参列者にお茶を出す手伝…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P62

イエスよりマリアは若し草の絮 絵や彫刻のマリアは、ピュアで若々しく自愛に満ちた顔をしている。それに比べイエスは老成した顔だ。「イエスよりマリアは若し」というフレーズに付ける季語は? と思ったとき、ふっと黄金の草の絮が目に浮かんだ。躊躇なくマ…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P60

太陽は果実のごとし秋の山 友人のTに誘われて高尾山に行った。お茶屋で色々なものを食べよう。その心積りでいたがTはダイエット中、おにぎり二個の昼食になろうとは……。やっとのことで薬王院がある頂上に辿り着き、俳句を作ろうと見渡せば金色に輝く太陽がマ…