大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P64

 木枯や菊子夫人の菊づくし


 北原白秋夫人の葬儀は、木枯の吹く寒い日だった。長兄の代理として参列したものの、菊子夫人と面識のなかった私は話しかけて下さる方々と会話がすぐにとぎれてしまう。仕方なく、借りてきた猫のように静かに参列者にお茶を出す手伝いをしていた。その間も喜久子夫人の死を悼む人の列は長々と続いていた。
〈葬送にゆりかごの唄冬木の芽〉〈詩人らの立ちて暖とる風の中〉らは、そのときに得た思い出深い作品である。 (『火のいろに』)