大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P66

 白菜を洗ふ双手は櫂の冷え


 冬の晴れた朝、白菜漬を作ろうと思った。それには、白菜を洗って干さなければならない。庭の洗い場で、水道の蛇口をひねり白菜をざぶざぶと洗う。白菜にあたる水しぶきが雨音のようで心地よかった。だが、時間が経つにつれ、冷えきった指先は感覚がなくなりやがて両手と両腕は、冬の波を搔きつつ小舟を進める櫂のように感じられた。冷え切った櫂は魚や海藻よりも逞しくそして切れない。 (『火のいろに』)