2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ゴムの木 9

英語劇研究部の部室を出ると、小山は黙って歩いて行きます。ぼくも黙ったままついて行きました。校門を抜けて、しばらく歩くと、駅前に続く商店街に出ました。彼は、ちらっとぼくをふり返ると、1軒の喫茶店のドアを押しました。 タバコの煙りが立ちこめてい…

ゴムの木 8

その年の正月に、小山は岡野と二人で、武蔵小杉駅前の喫茶店レイロー(漢字で書けば、玲瓏なのでしょうね、きっと)にぼくを呼び出しました(註、小山と岡野については、2007-04-08「市川さんの話 6 (でもほぼ余談)」参照)。この日のことを、ぼくはずっと…

ゴムの木 7

「きみは、ぼくが来る前にも、正社員になるようにすすめられたことがあったそうだが、どうして断ったのかな?」 大松さんが、ぼくの隣りの席に腰をおろして、口をひらきました。 「気がすすみませんでした」 ぼくは正直にいいました。 「気がすすまないから…

ゴムの木 6

大松さんは、東京商科大学(現・一橋大学)を卒業しました。貧乏でとても学業を続けていく余裕などなかったのだけれど、恩師や同級生の援助があって(学資を出してくれたそうです)、家庭教師をかけもちしてやっとのことで卒業できた、と大松さんはいいまし…

ゴムの木 5

1970年代半ば、商船三井は海外からセブンシーズ号を購入しました(セブンシーズ号は、のちににっぽん丸(2代目)と名を改めます)。 営業部は、この船での外洋クルーズを企画しました。まだ、豪華客船で長期の船旅というのに日本人は慣れていない頃のことで…