2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P94

風船かづら禁欲のいろ極めけり 風船蔓が、風船に似た薄緑の実をつぎつぎにつけるのを見て、この涼やかな若草色は禁欲の色だと直感した。そして、何かに耐えているような形から想を得てこの句はできた。 俳人、石田いづみさんは、風船蔓がお好きだった。風船…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P92

太陽や竹林といふ夏の檻 人間関係や句作に疲れると、近くの竹林の精神科によく通ったものだ。竹林の中に、精神科があり、医師がいるわけではない。竹林そのものが私にとって精神科であり、そこを吹く風や黒揚羽や木漏れ日が医師だった。空へ真っ直ぐに伸びた…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P90

木の揺れが魚に移れり半夏生 静岡県の柿田川湧水に、長谷川櫂氏、千葉皓史氏、私の三人で吟行をした折の作。 クレソンや水草が群生する柿田川は、澄んでいて小魚たちの動きがひと目見てよくわかった。水辺の草木が揺れるとそれが合図のように小魚たちは揺ら…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P88

枝炭の骨の音して山あかり 二十年前のことだが、山里の情緒に富む寺家という所に、茶道で火を起こすのに使う枝炭をよく買いに行った。田園都市線の青葉台駅からバスで十数分で行けるこの町は、炭を焼くことでも知られていた。ある日、炭屋に行ったとき、石灰…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P86

まだ誰のものでもあらぬ箱の桃 二十三歳の私の悩みは、交通事故のときに何針も縫った顔の傷跡だった。瞼、眉間、左の頰の傷跡の、紅く桃の断面のような生々しさ。母は私のことを「桃姫」と呼び癒えない傷なんてない! と励ましてくれた。が、何処に行っても…

大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P84

ことごとく裂け月の出の青芭蕉 月の出の時刻になると、帰宅する夫のあとを追いかけるように猫たちが帰ってくる。猫は体内時計を持っているのか、どんなに遠出していても、暗くなると戻ってくる。 月の出といえば、昔、黄金丸という猫を探しあぐねて空を見上…