大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P84

 ことごとく裂け月の出の青芭蕉


 月の出の時刻になると、帰宅する夫のあとを追いかけるように猫たちが帰ってくる。猫は体内時計を持っているのか、どんなに遠出していても、暗くなると戻ってくる。
 月の出といえば、昔、黄金丸という猫を探しあぐねて空を見上げると、月の光に照らされた青い芭蕉が目にとまった。風雨に傷んだのかその鮮やかな青い葉はどれも裂けていた。晩秋でもないのに……。黄金丸とはもう会えないような気がした。 (『雲の塔』)