2013-01-01から1年間の記事一覧

号外-4

今年のはじめに、谷川俊太郎の自選詩集が出版されたのをひとにきいて、ちょっと迷ってから購入した(岩波文庫「自選 谷川俊太郎詩集」)。つき合いのようなものである。 ぼくが最初に手にした谷川俊太郎の詩集も、文庫本だった。岩波文庫に収録された年譜を…

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「田村隆一とネコ」のつづき。 絵はがきには、細かい文字で、こう書かれている。 TV、拝見しました。行く先々で、それは楽しそうに お酒を召上がっていらっしゃいましたね。たいへん お元気なごようすで、なによりでした。でも、もう、2〜3人は、奥サンをも…

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「田村隆一とネコ」をもうすこし見てみよう。 夫人は「田村もネコも正月に家にやってきたし、どちらも来た時から悪びれることなく、堂々としていて、よく似ていたと思うわ」と笑う。態度だけではなく、食べ物の好みも似たところがあった、という。 失礼だが…

綴じ込みページ 猫-118

「田村隆一とネコ」のつづき。 野良猫らしからぬ、堂々とした態度に、最初は飼い猫が迷いこんできたかと思った夫人が「あんた、帰んなさいよ」と猫に諭したが、一向にどこへも行く様子がない。田村の「飼ってやれよ」の一言で、この野良の雄猫は田村家で飼わ…

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事実は、大きく違っていたようである。そのあたりの消息は、詩人、ねじめ正一の「荒地の恋」という小説にくわしいらしい。らしいというのは、ぼくには怖くて読めなかったからだ。読もうとおもって購入したのだけれど、ぼくが知っている田村隆一が、ぼくの知…

綴じ込みページ 猫-116

「田村隆一とネコ」のつづき。 明日は正月という昭和五七(一九八二)年の大晦日。田村隆一は、ふろしきの代わりに青い布で包んだ鳥籠を持って、鎌倉の、のちの夫人である悦子さんの家に現れた。籠の中にいたのは尾長のタケ。悦子さんの家にはチィという猫が…

号外-3

われらがわさびさんの句が、株式会社KADOKAWA(旧角川書店)発行の「角川 俳句」12月号に掲載された。われらが、というのはおかしいかな。とにかく、快挙である。 わさびという俳号ではなくて本名で載っているが、所属が「そろり会」とあるのがうれしい。な…

綴じ込みページ 猫-115

また、「作家の猫」(平凡社 コロナ・ブックス)を開いてみよう。 一枚の絵葉書が友人から田村のもとへ届く。追伸に「この猫、田村さん宅の『ネコ』に似ていませんか?」とある。この絵葉書に触発されて田村の詩「カイロの猫」が書かれ、ネコはカイロ生まれ…

綴じ込みページ 猫-114

ミーヤの粉になった骨は、白い麻のハンカチでこしらえた袋に、いくつか小分けにする。そして、その袋を、ぼくの上衣の裏地の内側に縫い付けておく。もちろん、外からわからないようにして。厚手のハリスツイードのジャケットなんかが最適だろう。遺言に、火…

綴じ込みページ 猫-113

吉行淳之介は、「壷の中にある灰は、焼いた犬の骨と肉ではなくて、人間のものとしかおもえなかったからだ。」と書いている。ベンソンという名の飼い犬の骨である。 歯科衛生士の百崎さんは、飼猫がなくなって、火葬して灰にしたが、骨壷はまだ箪笥の上に置い…

号外-2

友だちの甘木の訃報に接した。六年前から絶交していた。 自分のいいときにしか連絡してこない男だったが、この一、二カ月のあいだに何回か携帯に連絡があって、そのつどぼくは着信拒否していた。六年経って、いい加減ほとぼりが冷めたとでもおもったか、また…

号外

きょうは、ぼくの誕生日だ。むかしは十歳サバ読めたが、昨今は齢相応か、ときには年上に見られるようになった。しかし、いつまでも二十七歳でいられるわけもないが、気分としてはいまだにそのあたりを漂っている。 俳句のお仲間から、誕生祝いのご挨拶句をい…

綴じ込みページ 猫-112

吉行淳之介の「ミスター・ベンソン」、承前。 予定の仕事を終えて家に帰ってみると、犬は灰になって素木の四角い箱を白い布で包んだものの中にいた。 「庭の隅に埋めてやりましょう」 同居人が言う。 「うん、そのうち」 そういう作業は気がすすまないので、…

綴じ込みページ 猫-111

吉行淳之介の「ミスター・ベンソン」は、さらに続く。 私が窓を開けると、顎をじかに地面にくっつけて平べったくなっていた犬が立上がって近寄ってくると、一声吠えた。それは、友好のしるしである。しかし、その吠え声が妙に嗄れて、無理に声を押し出してい…

綴じ込みページ 猫-110

さて、「ミスター・ベンソン」である。 音楽家ばかり代々出る家系とか、犯罪者ばかりの家系の図を見たことがある。一見、トーナメント形式のゲームの組合わせに似ている。 一番上の欄に、現在の犬の正式な名前がタイプで印されていて、『ベンソン・オブ・ア…

綴じ込みページ 猫-109

まだまだ、「ミスター・ベンソン」。 予想もしていなかったことを聞かされた気分で、青年と別れると、窓から覗いてみた。黒い土の上に腹這いになった犬は、いつものように前肢に顎を載せて、いかにも無精たらしい恰好をしている。 窓ガラスを引開けると、犬…

綴じ込みページ 猫-108

まだ「ミスター・ベンソン」。 この犬が家にきてから七年目になった。人間の年齢に換算すればおよそ四十八歳ということになるが、大型犬は寿命が短かいという。その上、寒い国が体質に合っている犬なのだから、長生きをしているといってようだろう。 いずれ…

綴じ込みページ 猫-107

「ミスター・ベンソン」は、まだつづく。 たしかに、この犬には「犬徳」とでもいうものが備わっていた。ずいぶん注意するのだが、ときどき裏木戸の錠を締め忘れる。すると、犬が出て行ってしまう。 あるときは、いくら探しても見付からないで、朝になっても…

綴じ込みページ 猫-106

「ミスター・ベンソン」のつづき。 その瞬間、犬はプールのまわりのコンクリート舗装の上で平たくなり、まるでその面に獅噛みついているようになった。綱を引張ってみても、すこしも動かない。足を踏張って両手で引き綱の端を掴み、力一杯引張ると、一層地面…

綴じ込みページ 猫-105

「ミスター・ベンソン」は、一九七四年九月「すばる」十七号に発表されている。 吉行淳之介が大田区北千束から世田谷区上野毛に越したのは、一九六八年のことである。年譜には、「前年の五月頃より、身心ともに不調に陥り、再三入院して検査を繰返す。およそ…

綴じ込みページ 猫-104

吉行淳之介の「ミスター・ベンソン」が中途半端になっていた。せっかくだから、片付けておこう。 寒い国の犬を、四季の変化が大きい湿潤な気候の土地で飼うのは残酷であるが、この犬が生まれたのは日本で、わざわざ輸入したのではない。もっとも、何代か前の…

綴じ込みページ 猫-103

吉行淳之介「犬が育てた猫」のつづき。 家にいた猫の話に戻ると、思春期になって二度失恋した。これも、どうやら猫として求愛の立居振舞が分らなかったせいのような気がする。このことがあって、かなり世をはかなんでいる様子だったとき、庭に入ってきた近所…

綴じ込みページ 猫-102

吉行淳之介「犬が育てた猫」のつづき。 さて、その雰囲気を具体的に説明しようとして、私の頭は混乱してきた。「あれは、犬のような猫だった、行方不明になって惜しいことをした、ああいう猫だったら、いま飼ってもいいな」とときどき思い出すのだが、「ああ…

綴じ込みページ 猫-101

物事というのは、いつもそういうふうに進んでいくのかもしれない。迷子札のコインと新しい首輪は、同じ日に届いた。コインには、ちゃんとミーヤと彫られていた。 早速、ミーヤの首にかけてあげた。渋い紫色は、すこし地味だったけれど、三毛猫の白い首にはよ…

綴じ込みページ 猫-100

ぼくは、最初、ひどい飼い主だなあ、とおもった。飼うのがいやになって、保健所か犬猫保護センターのようなところに捨ててしまったのだろう、とおもったからだ。しかし、このごろは、いや、そうではない、飼い主はおそらく齢をとって飼えなくなってしまった…

綴じ込みページ 猫-99

「ミスター・ベンソン」のつづき。 犬や猫やその他の動物にたいして、私はほとんど関心がない。鳥や魚にたいしても同じだが、嫌いというわけでもない。この犬を私は気に入っているのだが、窓ガラス越しに眺めるだけで、一カ月くらいも声をかけないのが普通の…

綴じ込みページ 猫-98

「犬が育てた猫」のつづき。 いまの私の家の庭に、大きな犬がいつも寝そべっているが、その犬とガラス越しに挨拶をかわすのは一週間に一度くらいである。動物には興味はあるが、いま飼うとなると億劫である。もっとも、子供のころは家で柴犬を飼っていたし、…

綴じ込みページ 猫-97

「犬が育てた猫」から、もうすこし。 多摩川の近くのいまの家に引越すすこし前のことだから、昭和四十年ころだったろう。パトカーと救急車のサイレンが、ウーウーウーという脅迫的な音から、ピーポピーポという音に変った。そのとき困ったのが、家にいた犬で…

綴じ込みページ 猫-96

で、「猫の名作文学館 や」から吉行淳之介の「犬が育てた猫」。 吉行淳之介は、ある日家の裏口に捨てられていた猫を、飼い犬の木箱のなかに入れておく。すると、吉行が飼っていた老犬は子猫をいつくしみ育てる。成長した猫は自分を犬だと思っているらしく、…

綴じ込みページ 猫-95

「猫の名作文学館」の「や」は、吉行淳之介の「犬が育てた猫」。 この本はすぐそばの本棚にあるので、早速、取り出してみた。潮出版社から出た箱入りの本である(昭和六十二年三月五日発行)。 なにかしているときに、好きな作家の本を手に取ると、ロクなこ…