綴じ込みページ 猫-100

 ぼくは、最初、ひどい飼い主だなあ、とおもった。飼うのがいやになって、保健所か犬猫保護センターのようなところに捨ててしまったのだろう、とおもったからだ。しかし、このごろは、いや、そうではない、飼い主はおそらく齢をとって飼えなくなってしまったのだろう、とおもうようになった。理由は、いろいろ考えられる。自分が寝たきりになれば、病院に入らまければならない。それから、老後を過ごすケア付きのセンターに移るとなったら、動物は連れて行けないだろう。また、極端なことを考えれば、飼い主が死んでしまったということもあるうる。いずれにしろ、ボランティアの森さんが引き取って、インターネットの里親募集の掲示板に載せ、ぼくが見つけたわけである。
 ぼくは、ミーヤが来る前に、首輪と迷子札を用意した。首輪は、イギリス製の綿プリントの生地の安全バックル付きにした。安全バックルというのは、止める部分が、なにかの力が加わったときに外れるようになっているものである。猫は狭いところが好きだから、のこのこ入って行って、なにかに首輪がひっかかるかもしれない。そうすると、びっくりして、あわてて、ムキになって突き進むだろう。そんなとき、バックルが自然に外れて、猫の首を締め付けることがないのである。高い所からジャンプしたときに、やはり首輪がなにかにひっかかるかもしれない。この首輪は、4,5キロ以上の力がかかると外れることになっている。だから、落下する体重4キロの猫は、それ以上の重さの物体に変っているから、簡単に外れて助かるのである。
 迷子札は、すでに説明したように、アルミの丸い板でできている。気づいたら、もらって二年以上経つのに、名前がニコのままであった。それに、その間、一回も首輪を取り替えなかったら、擦れてボロボロになっていた。大好きだよ、と甘い声でささやいているのに、これではあんまりである。あわてて首輪屋さんを探してみた。
 二年以上経ったら、ぼくが購入した首輪屋さんは見当たらなくなっていた。そのかわり、ずいぶん上等な生地を使った首輪専門店が見つかった(猫のためのお店:umisoraという)。こうなったら、そのなかでもいちばん上等な生地のを買ってあげたい。
 緞子(どんす)という生地がある。シルクのやわらかそうな風合いの生地である。いろいろな色と柄がある。和猫に合いそうな色柄である。
「緞子(どんす)とは経糸緯糸を異なる色糸を使って模様を織り出した生地。柔らかな風合いと上品な光沢が特徴です」
 というキャプションがついている。
 たくさんあって迷ったが、紫鼠(むらさきねず)という色にした。「日本古来の色、紫鼠(むらさきねず)。その色をベースに捩り花という柄を入れた生地をベースに、首輪にアレンジしました。」と説明されている。
(つづく)