綴じ込みページ 猫-99

「ミスター・ベンソン」のつづき。


 犬や猫やその他の動物にたいして、私はほとんど関心がない。鳥や魚にたいしても同じだが、嫌いというわけでもない。この犬を私は気に入っているのだが、窓ガラス越しに眺めるだけで、一カ月くらいも声をかけないのが普通の状態になっている。
 二、三度頭を叩いてやると、もうそれ以上は面倒になる。そのところも犬のほうも心得ていて、甘える声を出して擦り寄るが、
「もうこのくらいでいいだろう」
 という感じで、くるりと向きを変えると、元の場所に戻って寝そべってしまう。人の心をよく読み取っている。もともと利口な種類の犬で、原産地はスイスである。雪山で遭難した人間を、ブランデーの樽を頸に結びつけられて救いに行く。


「犬が育てた猫」の話をしていたはずなのに、いつの間にか「ミスター・ベンソン」に迷い込んでしまった。


 ミーヤをもらったとき、迷子札のメダルをこしらえてもらった。ニコという名前だというから、ニコと彫ってもらった。「タカシマ ニコ」と彫って、その間に電話番号を入れてもらった。迷子札だから、なにかの理由で家を離れてしまったとき、見つけるか拾ってくれるかした人に、連絡先がわからなくてはいけない。一円玉より小さなアルミのメダルで、彫り込める文字の数に制限がある。現在は、携帯電話のほうが便利なのだが、文字数がひとつ多い分はみ出してしまう。やむなく自宅の番号を入れた。裏には、せっかくだからミーヤの生年月日(2006.4.2)を入れておいた。
 里親募集に登場する猫は、ほとんどが野良猫だから、生年月日がわかるというのはマレな例だろう。これは、ミーヤが拾われた野良猫でなく、だれかが飼っていた猫から生まれたことを意味している。飼っていた猫が子どもを産むと、たいてい、親戚や知り合いに声をかけてもらってもらう。ミーヤは、きっとそのようにしてもらわれてきて、三歳か四歳のとき、飼育放棄の憂き目にあったのであろう。
(つづく)