2010-01-01から1年間の記事一覧

銀座百点 号外29

さて、いて丁さん選の飛行船句は、つぎのとおりである。 口切りを買ひに寺町一保堂 赤蕪をはむ妻の歯の白さかな 寒ければ簾はあげず香炉峰 廃駅のホームのはずれのカンナかな 線路錆びて草むすなかに昏るる駅 秋燈や机上に紫苑物語 垣越へて訪なう隣家の実む…

銀座百点 号外28

不肖飛行船の句は、お仲間のなかでも毀誉褒貶がはげしくて、もちあげられたり落とされたりしている。コントロールのわるいピッチャーみたいに、なかなかストライクがはいらないのだから無理もない。選のはいらない句は残さないきまりだが、なんとなく残って…

銀座百点 号外27

さて、それではつぎに、柚さんが選んだ万作さんの句を並べてみよう。いて丁さんも柚さんも「銀座百点」の「銀座俳句」に掲載された同士だが、しかしスタイルはだいぶ異なっている。その違いはやはり感性の違いで、それはなにを採るかに如実に現れているよう…

銀座百点 号外26

それでは、こんどは、いて丁さんが選んだ万作さんの句を見てみよう。 行く先を迷う我が身に春の雨 まんさくに色取り戻す帰り道 草刈の野に咲きおるや彼岸花 秋まゆを集め自前の紬織る 鍋の底焦げ付きのこり年新た 一年の出だしはいかに初商 牛筋を炊いて迎え…

銀座百点 号外25

句会でぼくがとった万作さんの句を紹介しよう。 黒い雨平積みされて原爆忌 蜩や畳のけばに差す日ざし 一日と露草の露白くなり 水仙のただ一花で香りたる 新春や荒神様の札新た そのままに食めと祖母云ふ桜餅 手に負えぬこと多かりし花守り 薄墨を流してぼか…

銀座百点 号外24

花岡万作さんは、句会のお仲間の一人である。南青山に「ゑり華」という加賀友禅の呉服店があるが、万作さんはそこの社長さんである。 万作さんのご実家は金沢にある。ご実家が「ゑり華」本店で、万作さんは子どもの頃から、他人の顔を見たら、お客か否かにか…

銀座百点 号外23

池田澄子にこんな句があることを、このあいだ知った。わさびさんが池田澄子の名前をあげなければ、ぼくはずっと気づかずにいただろう。 号泣やたくさん息を吸ってから ぼくは、この前、つぎのような駄句をつくった。 サフランを摘めば世界のほころびぬ ぼく…

銀座百点 号外22

俳人池田澄子に、わさびさんがとても惹かれている句がある。 じゃんけんで負けて蛍に生まれたの ふらんす堂に「自句自解」シリーズというのがあって、その第一回配本が池田澄子の「ベスト100」である。 この句の自解を、ちょっとのぞいてみる。 じゃんけんは…

銀座百点 号外21

たまたま本屋をのぞいたら、「田村隆一全集」第2回配本第5巻がでていた。ぼくは、田村さんの本はごく初期の詩集2冊を除き全部持っている。しかし、未刊行のエッセイは、雑誌をほとんど読まないぼくにとって未知の領域だ。全集が有難いとおもえるのは、こんな…

銀座百点 号外20

将来編まれるかもしれぬ、編まれぬかもしれぬ「飛行船句屑」のなかに、けっして数多くない猫の句も採ろうとおもう。しかし、編まれなかったときの用心に、うまくもない句を人前に披露してしまう。自分でB級だといってるのだから、だれも文句はいわないだろう…

銀座百点 号外19

白石いて丁さんが、大木あまり先生の句集「星涼」から猫の句だけ二十一句取り出して、プリントにして配ってくれた。また、叱られることにもなりかねないが、せっかくだから引用しよう(「飛行船よ、そんなにほいほいみせちゃったら、句集買ってもらえなくな…

銀座百点 号外18

大木あまり句集「星涼」(ふらんす堂刊)の帯には、自選十五句が掲載されている。帯に載せてあるくらいだから、引用しても叱られないだろう。 なんだか、いつも叱られているような気がする。だから、というわけでもないが、先日の句会につぎのような句を出し…

銀座百点 号外17

本棚を掃除していたら、「銀座百点」のバックナンバーが出てきた。見ると、2007年5月号(No.630)である。わざわざ本棚に挟んであるからには、なにか気になる記事が掲載されていたのだろう。目次をひらいて、目を通した。40ページ「今月のエッセイ」に海老沢…

銀座百点 号外16

先日、句会がひらかれたとき、白石正人さんは、「銀座百点」の「銀座句会」で秀逸をいただいたお祝いだといって上梓されたばかりの大木あまり先生の最新句集「星涼」をお仲間に配られた。星涼とは、集中の句「星涼しもの書くときも病むときも」によるものだ…

銀座百点 号外15

「銀座百点」10月号「銀座俳句」欄に、句会のお仲間、白石正人さんの句が「秀逸」で載っている。わが句会では、この欄選出は二人目である。 月光を浴びたくなれば寝返れり 白石正人 高橋睦郎の選評が添えられている。 白石正人さん、眠っている人が眠ってい…

銀座百点 号外14

「銀座百点」8月号の「銀座俳句」欄で、句会のお仲間、柚さんの句が佳作に載っている。選者は、高橋睦郎。 梅雨晴れや手足ののぞく乳母車 いはら柚 柚さんは、句会でも地に足のついた佳作を繰り出してくる才女である。妻であり、母親であり、まっとうな生活…

銀座百点 号外13

「銀座百点」を支えた一人ひとりを顕彰していたら、とてもじゃないが「号外」が終らない。第一、本編より長い号外というのもいかがなものか。致し方がないので、永井龍男を右代表として採り上げ、ほかのあまたの有識者は割愛の章にお引き取り願うことにする。…

銀座百点 号外12

まだ、井伏鱒二の作家論「永井龍男の『はにかみ』」を引きずっている。 「この虚弱な少年が、大正十一年十二月、十六歳の年に帝劇の脚本募集に応じて当選した。」 (中略) 「ひよわくて感受性の強い、しかしキャッチボールなど全然へたくそな少年を私は想像…

銀座百点 号外11

『永井龍男の「はにかみ」』で井伏鱒二は、永井龍男について深く切り込んでゆく。 「後に、文藝春秋社を退いてから文筆生活に入るまでの彼の生活は、自伝体の作品『そばやまで』に書いてある。単行本『胡桃割り』の『あとがき』に、作者自身、次のやうに云つ…

銀座百点 号外10

井伏鱒二に、「永井の会」と題する一文がある。全部引用したい気持に駆られるが、要点だけにふれる。本当は、要点以外が面白いのだが。 「永井龍男が横光賞をもらつた。その祝賀会が美術倶楽部で催され、われわれ世話人はその会のことを『永井の会』と云つた…

銀座百点 号外9

井伏鱒二に「風貌・姿勢」と題して、友人知己のことを書いたエッセイがある。それは、一筆でさっと仕上げたスケッチのようなものである。 例によって、永井龍男について触れた部分を引用することにする。 「彼の旧友のいふところによると、永井龍男は高邁な…

銀座百点 号外8

井伏鱒二に「永井龍男の『はにかみ』」と題する作家論がある(「井上靖・永井龍男集」〈現代日本文学大系86〉筑摩書房、1969年)。ついでだから、これも引用してしまう。 「よほどの虚弱児童であつたらしい。永井君の次兄の二郎さんも云ってゐた。 『龍男(…

銀座百点 号外7

「今度、非常に気持のいい全集が出ると思ひます。」 井伏鱒二は、「永井龍男全集」の推薦文をこう書き出します(註:昭和五十五年一月二十一日発行「永井龍男全集」全十二巻(講談社)内容見本)。 「永井龍男は粋な作品を書きます。粋とは何か。私の蔵つて…

銀座百点 号外6

「井伏鱒二対談集」(新潮文庫・平成八年八月一日発行)から、もうすこし引用します。 永井「僕が『文藝春秋』に入ったのは昭和二年、当時の文藝春秋は、麹町三番町の元有島武郎さんの屋敷ですよ。有島さんの家は五千石ぐらいの旗本の屋敷で立派でした。左右…

銀座百点 号外5

平成8年8月に新潮文庫に収められた「井伏鱒二対談集」(この対談集は平成5年4月新潮社より刊行された)に「文学・閑話休題」と題する永井龍男との対談が収録されている。志賀直哉がなくなったばかりのときで、志賀直哉の話からはじまっている。大村彦次郎氏…

銀座百点 号外4

永井龍男は、1904年(明治37年)5月20日、神田猿楽町に生まれた。父教治郎、母ヱツ。四男一女の末っ子である。例によって、今回もまた横道。 「東京生まれの文人たち」と副題のある大村彦次郎著「万太郎 松太郎 正太郎」(2007年7月25日 筑摩書房刊)の第6章…

銀座百点 号外3

『まず私自身のことからはじめるのだが、私が若いころカストリ雑誌の編集者をしていたとおもっている人が多いようである。それはそれでいいのだが、私の入社した新太陽社は「モダン日本」という戦前派には周知のしかるべき雑誌を出していた。もっとも、その…

銀座百店 号外2

吉行淳之介に、「永井龍男の文章」という一文がある(「毎日新聞」夕刊 昭和四十二年一月四日発行)。脱線ついでに紹介してみる。 『永井龍男氏の文章は、地味で簡潔で、そこには人目を惹く余分な飾りのようなものは一切ない。人間の目からみて、いかにも無…

銀座百点 号外

東門居永井龍男の句集から一句だけ紹介したところ、 「それがいちばんいい句かい」 と俳句を作る友人からいわれました。なんだか不満そうな口ぶりです。 「ぼくの趣味だから、だれにとっても好もしい句というわけにはいかないね」 「だったら、もっとたくさ…

銀座百点 17

今回も「銀座百点」No.500(平成8年7月号)から引用します。 大村「昭和三十三年に永井龍男さんが『銀座俳句』の選者になられましたが、永井さんの貢献度も大きかったと思います。ずいぶん苦労なさってましたよ。私がお伺いすると、『きょうは銀座百点の選句…