銀座百点 号外26

 それでは、こんどは、いて丁さんが選んだ万作さんの句を見てみよう。


    行く先を迷う我が身に春の雨
    まんさくに色取り戻す帰り道
    草刈の野に咲きおるや彼岸花
    秋まゆを集め自前の紬織る
    鍋の底焦げ付きのこり年新た
    一年の出だしはいかに初商
    牛筋を炊いて迎える小正月
    鏡餅加賀には加賀の掟あり
    再会や鰆しめたる昆布の味
    霞立ち生温かき日なりバレンタイン
    雪しろの橋脚打って水分かる
    蠅生まる痴話喧嘩を聞きつけて
    手に負えぬこと多かりし花守り
    少年の薄き胸板夏衣
    気のきいた嘘吐けぬ身やサングラス
    白犬の反射眩しき土用丑
    古着屋の暖簾ゆらすや秋の風
    砂冷めて窓に蟷螂浜の茶屋
    悲しみを空に放して海紅豆
    青楓対角線を生かしきる
    逝く人の目に彩りを秋桜
    ガレイジのトタン震わす猫の恋
    あたらしの苔に積もるる花の塵
    真桑瓜枕重ねし日は遠く
    炭扇ぐ今なき屋号の古団扇
    雁や白山神社の杉高し


 いて丁さんとぼくの感性が、ずいぶんちがっていることがよくわかる。