銀座百点 号外27

  さて、それではつぎに、柚さんが選んだ万作さんの句を並べてみよう。いて丁さんも柚さんも「銀座百点」の「銀座俳句」に掲載された同士だが、しかしスタイルはだいぶ異なっている。その違いはやはり感性の違いで、それはなにを採るかに如実に現れているようにおもえる。


    寒染めに色冴えわたる紅の色
    雪吊りの松をうらやむ寒椿
    白犬の反射眩しき土用丑
    父譲り袖通さぬも土用干し
    手にあまる熱さうらめし衣被
    蜩や畳のけばに差す日ざし
    風にゆれ小首かしげる赤とんぼ
    遠来の母を連れ立つ初時雨
    腰痛の引きずる足に散紅葉
    裏ネルの温さ嬉しや別珍足袋
    誂えのしつけ残して年の暮れ
    水仙のただ一花で香りたる
    鰭酒の甘みに溶けし京ことば
    鍋の底焦げ付きのこり年新た
    白絹の無垢にあやかる初荷かな
    薄色の袷手にとる春の空
    楽しきは春霜踏みし通い道
    庭先の足形洗う春霰
    墨堤の舟に乗り込む花衣
    山吹の散る花受けて花の散る
    髪上げて衣紋抜きたる春袷
    五月の陽残雪白く緑濃く
    トコロテン雨の匂いにどこか似て
    気のきいた嘘吐けぬ身やサングラス
    今日の厄ぞろりと落とし夏の帯
    ふて寝して湿る畳や蠅叩
    色紙の雨ににじむや星迎
    砂冷めて窓に蟷螂浜の茶屋
    ほほ染めて八十八夜世迷い言
    不意打ちに胸ざわめかす沈丁花
    もう単衣また袷よと夏が立ち
    悲しみを空に放して海紅豆
    下町の青くけぶるは初さんま
    ビルの上富士そびえ立ち息白し
    傍らにスコップ置きて除夜の鐘
    鉄線花見にこんがかと母の声
    姿良き稚鮎を前に箸を割り
    井戸端のブリキのバケツ熟れトマト
    雁や白山神社杉高し
    破れ芭蕉やがて清らな布となり
    櫨紅葉うちなんちゅうの睫毛濃く
    熱燗や背を丸めたる自警団
    備長のきんとはぜるや葱を焼く