銀座百点 号外28

  不肖飛行船の句は、お仲間のなかでも毀誉褒貶がはげしくて、もちあげられたり落とされたりしている。コントロールのわるいピッチャーみたいに、なかなかストライクがはいらないのだから無理もない。選のはいらない句は残さないきまりだが、なんとなく残っているのは、ひとえにあまり先生が拾ってくださるお陰である。
 そんな句だから、選んでくださるお仲間は、ボールが自分の好みのコースにこないかぎりはバットを振ってくださらない。いて丁さんと柚さんが、どんな球質ならバットをだすか、くらべてみるには格好の材料かもしれない。
 まずは、割と辛口の柚さんから。


    麗らかや妻笑みもらす雛のごと
    幼子の掌よりこぼるる雛あられ
    廃駅のホームのはずれのカンナかな
    夏祭り狐の面の笑みもらす
    すり減りしポケットの本夏惜しむ
    掌のなかの宇宙淋しき実紫
    秋燈に短冊の文字立ち上がる
    天高く飛行機雲の軌跡かな
    凍天に銀の星座は張り付けり
    一月の炬燵の中の笑ひ猫
    春まだき吐息の中の蜃気楼
    菜の花を摘む指先に野が香る
    短日や研ぐ米こぼれこぼれたり
    春泥やまた留年の夜学生
    テーブルの皿輝ける復活祭
    眼を伏せし男の嘘や桜桃忌
    不器用な蜘蛛歪なる巣を張れり
    葉の裏の特等席のかたつむり
    空きびんを透かして夏の空を見る
    白犬の路地ふさぎをる暑さかな
    寺町や茶を焙じをる路地の秋
    永き日を猫膝に来て動かざる
    花冷えに妻の掌包む昼下がり
    花陰に軒借りてをるかたつむり
    睡蓮の夢見る如き寝顔かな
    猫の目に夏の扉の開かれん
    百日紅父の墓前の煙草かな
    半月の西瓜プールの子らを待つ
    夜もすがらうつつで聞くや虫しぐれ
    衣被いつしか妻は母に似て
    鞭のごと風に吹かれて散る柳
    仲秋や今宵は初恋偲ぶ夜
    旅せんかオリーブの実の熟す頃
    凩の窓叩く夜となりにけり
    定九郎出番待つ間の股火鉢
    老夫婦寄り添ひてゆく酉の市
    庭下駄や蹠寒き初句会
    海からの光透かして桜貝
    赤錆の鉄路に近く豆の花
    たんぽぽやテニスシューズに紐通す
    春燈下書き渋りたる手紙かな
    とりあへず夏の別れのビールかな
    晩夏光世界の果につれてつて
    誘蛾燈夜半に目覚めて雨を聴く
    燈台へ行く道昏るる盆の海
    本伏せて耳を澄ませば秋隣
    何となく外に出てみる野分かな
    ただ一羽渡る雁あり夢の中
    月光にふるへる妻の睫毛かな
    外套に虫喰ひの穴純老人
    冬空や茜に染まる飛行船