2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ハンドバッグ 15

サザエさんのおかあさんのような方がいた。いつも着物姿で、髪型もうしろで丸めて結っていた。じつに渋い着物だったが、それがよく似合っていた。センスがよかったのだろう。 仮に西中ルリ子様としておこう。名前がないと、話しづらいからである。 この名前…

ハンドバッグ 14

世の中には、なんでもひとつのもので統一したがる人がいる。弁護士の花器沼先生もその一人だった。 最初に花器沼先生にお会いしたときには、先生はゴールドファイルに凝っていた。ゴールドファイルはドイツのブランドで、上質な革としっかりしたつくりが自慢…

ハンドバッグ 13

昭和52年7月に、中途採用でぼくは銀座に勤めることになった。月給は手取りで9万3千円、額面で10万数千円だった。採用が決定して、来週から出社するようにいわれて会社を出てから、ふと思い立って友人の甘木に電話をかけた。 友人の甘木は、スチールの棚を作…

ハンドバッグ 12

「フランス製のバッグがあったんだがね」 機嫌のいいとき、砂糖部長が昔話をはじめた。 機嫌がいいのは、おおむね、遅番で夜いっしょに残っているときだった。昼間、むすっと苦虫を噛み殺したような顔をしていたのが、嘘のようだった。 「ずっと前のことだけ…

ハンドバッグ 11

馬のしっぽの毛を編んでつくられたハンドバッグがある。最良のものはドイツのコンテスというメーカーのバッグで、これはずいぶん高価である。 しっぽの毛はヴァイオリンの弦にも用いられるが、これを編んでできる生地は、見た目が畳のようである。横糸にしっ…