2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ハンドバッグ 22

岸谷先生には、お嬢様が一人いた。ぼくが最初にお会いしたのは、高校生のときだった。 アメリカのミステリ作家に、クレイグ・ライスという女性がいる。彼女は、いくつかの名作を遺したが、アガサ・クリスティーのように有名にはならなかった。好きな人だけが…

ハンドバッグ 21

歴史年表を見ると、なにも記述のない年というのがある。チグリスと呼ばれていた高校の世界史の教諭は、それはその時代が平和で、なにも事件が起きなかったからだ、と説明した(註、チグリスというのは、チグリス河・ユーフラテス河からとったあだ名である。…

ハンドバッグ 20

岸谷先生(仮名)は、歯医者さんだった。 ぼくは、この先生のご一家ほど、しあわせなご家族を知らない。 毎週木曜日と日曜日は、歯科医院の休診日なので、先生はご家族と銀座に遊びにみえられた。平日はお嬢様は学校があったから、ご尊父とお姉様と3人でやっ…

ハンドバッグ 19

モラビトのハンドバッグ(註、2008-10-12「ハンドバッグ 12」参照)がヤナセから納品されてすぐ、ぼくは自動車外商に出発した。 外商に出るためには、商品を選ばなくてはならない。半ダース入荷したモラビトのクロコダイルのバッグのうち、ぼくは3本選んで別…

ハンドバッグ 18

銀座のピカ一洋服店の永田さん(仮名)が、しゃぶしゃぶの肉をおかわりしながら、いった。 「うちの女子社員にオオイさんという名前の人がいるんですけど」 大阪なんば高島屋での催事に出張していたときのことだ。いっしょに展示会に参加していたピカ一洋服…

ハンドバッグ 17

警察署に着いたものの、二人はイタリア語が話せなかったから、日本語がわかる人が来るまで待たなくてはならなかった。それで、待合室に腰をおろして、だれかが呼びにくるのを待っていた。 しばらくすると、入り口のあたりが騒がしくなって、どかどかと人がな…

ハンドバッグ 16

その日、母娘は些細なことで喧嘩をした。それで、午後の自由行動のときも、二人は口をきかなかった。 母娘は二人だけで、表通りに面した何軒かの店を覗いてまわった。団体行動を嫌ったというより、高価な買い物をするかもしれなかったので、同行の人の目を気…