ハンドバッグ 19

 モラビトのハンドバッグ(註、2008-10-12「ハンドバッグ 12」参照)がヤナセから納品されてすぐ、ぼくは自動車外商に出発した。
 外商に出るためには、商品を選ばなくてはならない。半ダース入荷したモラビトのクロコダイルのバッグのうち、ぼくは3本選んで別にした(これだけで3百万円以上になります。いつも、バッグは全部で15本くらい持っていきます)。
 東京を出発した当日の夜、尾張一宮の顧客のお宅で3本のうち1本が売れた。幸先がいいけれど、あまり幸運なときは気をつけなくてはいけない。
 翌日、碧南市のO氏のところに伺った。O氏は、東京へ出かけてお留守だった。幸運は、やはり長くは続かないのか。
「ありゃー、タカシマさん、おみゃーさま、素敵ないいもん持ってみやーられて。だけど、こないだフェンディの内覧会で、主人とわたし、毛皮のコート買ったばかりでにゃーも。いくらちゅーて、あなた、1着5百万円。2着で1千万。それが、フェンディ、ぜんぜんまからんのよー」
 幸運は背中を向けたようである。
「でも、モラビト、前からほしかったから、もらっておこうかしら」
 幸運が、ちょっとふり返った気がした。
「まけてちょーよ、2本とも買うから」
 幸運が大いに頬笑んだ。ぼくもにこにこした。モラビトが3本とも売れて、ぼくは2日にして予算を達成してしまった。
 幸運なときには気をつけなくてはいけない。あとからあとから、幸運がくっついてくるから。