2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

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まだ「ミスター・ベンソン」。 この犬が家にきてから七年目になった。人間の年齢に換算すればおよそ四十八歳ということになるが、大型犬は寿命が短かいという。その上、寒い国が体質に合っている犬なのだから、長生きをしているといってようだろう。 いずれ…

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「ミスター・ベンソン」は、まだつづく。 たしかに、この犬には「犬徳」とでもいうものが備わっていた。ずいぶん注意するのだが、ときどき裏木戸の錠を締め忘れる。すると、犬が出て行ってしまう。 あるときは、いくら探しても見付からないで、朝になっても…

綴じ込みページ 猫-106

「ミスター・ベンソン」のつづき。 その瞬間、犬はプールのまわりのコンクリート舗装の上で平たくなり、まるでその面に獅噛みついているようになった。綱を引張ってみても、すこしも動かない。足を踏張って両手で引き綱の端を掴み、力一杯引張ると、一層地面…

綴じ込みページ 猫-105

「ミスター・ベンソン」は、一九七四年九月「すばる」十七号に発表されている。 吉行淳之介が大田区北千束から世田谷区上野毛に越したのは、一九六八年のことである。年譜には、「前年の五月頃より、身心ともに不調に陥り、再三入院して検査を繰返す。およそ…

綴じ込みページ 猫-104

吉行淳之介の「ミスター・ベンソン」が中途半端になっていた。せっかくだから、片付けておこう。 寒い国の犬を、四季の変化が大きい湿潤な気候の土地で飼うのは残酷であるが、この犬が生まれたのは日本で、わざわざ輸入したのではない。もっとも、何代か前の…

綴じ込みページ 猫-103

吉行淳之介「犬が育てた猫」のつづき。 家にいた猫の話に戻ると、思春期になって二度失恋した。これも、どうやら猫として求愛の立居振舞が分らなかったせいのような気がする。このことがあって、かなり世をはかなんでいる様子だったとき、庭に入ってきた近所…

綴じ込みページ 猫-102

吉行淳之介「犬が育てた猫」のつづき。 さて、その雰囲気を具体的に説明しようとして、私の頭は混乱してきた。「あれは、犬のような猫だった、行方不明になって惜しいことをした、ああいう猫だったら、いま飼ってもいいな」とときどき思い出すのだが、「ああ…