綴じ込みページ 猫-103

 吉行淳之介「犬が育てた猫」のつづき。


 家にいた猫の話に戻ると、思春期になって二度失恋した。これも、どうやら猫として求愛の立居振舞が分らなかったせいのような気がする。このことがあって、かなり世をはかなんでいる様子だったとき、庭に入ってきた近所の犬に親しく近寄って襲われた。このときの様子は目撃していたが、一瞬の間に高いところに逃げたものの、仲間だとおもっていた犬になぜこういう仕打ちをされるのか不審な顔をしていた。そのときから、ますます調子が狂ってきたようだ。あるとき、ついに卓上の魚を盗んだ。
「おまえともあろうものが、なぜそんなことをするのだ」
 と、私は猫に言った。なんともなさけなかった。それから間もなく、その猫はふっと姿を消してしまった。


作家の猫」(平凡社)所収「猫の名作文学館」には「猫なのに猫になりきれない猫の悲哀が、ドライな文章からそこはかとなく漂ってくる。」と書かれているが、「簡潔な」と言い直してほしい。


 ミーヤは、犬に似ている、とおもうときもあるが、最近は、死んだカミサンが乗り移っているのではあるまいか、とおもわされることが多い。


   飼ひ猫の妻に似てくる四月馬鹿   飛行船