2005-07-01から1ヶ月間の記事一覧

散歩する老人

毎日のように午前中、きまった時間に家の前の道を老人が通った。小ざっぱりとした服装で、血色もよく、やや太っていた。いつも女性が付き添っているが、年齢の離れた娘か、息子の嫁のようにも見えた。手を引くほどではないようで、話の相手をしながらゆっく…

内田百間的な

高橋義孝氏の「随筆 内田百間」(ひゃっけんのけんの字は、もんがまえのなかに月なのだが、パソコンの漢字にはない字なので、間を代用します。しかし、もとはといえば、故郷岡山の川、百間川からとった号で、ご本人も最初は百間と書いていたようだから、間違…

T氏とH氏と

朝の掃除はシャッターを上げてからすることになっていた。シャッターを上げ、それから帆布のひさしをおろす。ウィンドウのガラスを磨き、店内のガラスの戸や、ガラスケースの表面をふく。洋品店はガラスでできているといっても過言ではなく、どこもかしこも…

鴬谷のT氏

むかし、といってもずいぶん昔、ぼくが子どものころ、NHKテレビで「事件記者」というドラマを放映していた。 事件が鴬谷で起こって、各社の警視庁詰めの記者たちはいっせいに上野へ走った。ひとり、いつも三枚目の狂言まわしの役どころの記者がいて、もたも…

H氏と煙草

武蔵小金井のお大尽のH氏は、タバコを集めるのが趣味で、いまでもあるのかどうか、ソニービルのなかにあったタバコ屋さんにたびたび買い物にみえた。おもに輸入の外国タバコで、一人当たり何個しか買えないというタバコもあった。 割当があると、いかにお大…

怪しい来客簿

「こわいから、逃げてきちゃった」 麹町の料亭のおかみさんは、特徴のあるハスキーな声でいいました。 きっと、子どもの頃、築地界隈のがき大将で、おはるちゃんと呼ばれたりしていたときにも、やはりこのハスキーな声だったのでしょう。 その日、作家の対談…