2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ネクタイ 17

F・R・ストックトンに「女か虎か」というミステリがある。ごく短い作品だが、このてのミステリはリドル・ストーリーと呼ばれる。リドル・ストーリーとは、「結末をはっきり書かないで謎のまま終らせ、読者の想像に委ねて二通り以上の解釈を生む作品」と、「…

ネクタイ 16

「そりゃあ、おまえ、おれにもわかる気がするな」 ロバの耳で待ち合せた甘木が、タバコを灰皿でもみ消しながら、いった。 「おまえにはわるいが、世間ではおまえみたいな仕事は会社員ていわないんだよ。そりゃあ、会社に勤務しているんだから、書類かなにか…

ネクタイ 15

高校3年のとき、文科系志望なのに、ぼくは理科系のクラスにいた。理科の試験は生物で受けるつもりだったが、理科系クラスでは物理と化学が必須科目になっていた。だから、この1年、受験勉強をしているというのに、余分な物理化学にも追っかけられて、ひどい…

ネクタイ 14

昭和50年代のはじめ、まだ、イギリス製のネクタイはずいぶん幅を利かしていた。ファッションの分野でも、大英帝国は辛うじて面目を保っていたのだ。 たいていが織りタイで、しかも渋い小紋柄が多かった。たとえば、紺地に白の織り柄で、よーく目を凝らして見…

ネクタイ 13

久野新吾(仮名)氏は、ガラガラのだみ声で、しかも大音声といった按配だったから、とても内緒話なんかできる方でなかった。板橋の金属会社のこの社長は、気取ってたって、おまえ、しょうがあんめい(仕方があるまい)、といった気っぷに満ちあふれていた。 …