綴じ込みページ 猫-95

「猫の名作文学館」の「や」は、吉行淳之介の「犬が育てた猫」。
 この本はすぐそばの本棚にあるので、早速、取り出してみた。潮出版社から出た箱入りの本である(昭和六十二年三月五日発行)。
 なにかしているときに、好きな作家の本を手に取ると、ロクなことはない。やりかけていたことを放り出して、あちらこちら読みふけってしまうからである。


 いま、ミーヤは、相手にしてもらえないことに腹を立て、パソコンにむかうぼくの膝の上をわざと通り抜けて、障子の穴から縁側に入って行った。硝子戸の前にすわっているのかと見てみたが、いなかった。ミーヤ、と声をかけたら、部屋の反対側の硝子戸のカーテンのかげからノコノコ出てきた。わざわざ膝の上にのっかって障子を抜けてった意味がわからない。


「た」の項に、田中小実昌の「もったいぶり屋の猫」が載っており、「著者の家で飼っていたミヨという猫は、一緒に散歩しようと誘っても、もったいぶってなかなか出てこない。しかし放っておいて、ニンゲンと犬とで散歩に出かけるとすねたという。まるでニンゲンの、女の子のような猫だったわけだ。」と書かれている。
「動物がもったいぶるなんて、考えられないことだった。ニンゲンでももったいぶったりするのは、それこそもったいぶったオジンやオバンで、ふつうのひとは、もったいぶったりはしない」とコミさんも書いている。


 うちのミーヤももったいぶりか、と書こうとしたところに、ミーヤがジャンプして机上へ飛んできた。飛び乗ったとたんマウスを踏みつけ、すべってバランスを崩し、また飛び降りたが、そのとき、足の爪でぼくの手の甲を引っ掻いていった。血が盛り上がった。ミーヤに見せると、血のにおいをかいで顔をそむけた。本能的に血のにおいに敏感なのか。わるいことをしたとおもっているのだろうか。
 しかし、これがライオンなら、出血多量で弱ってきたらゆっくり食ってやろう、とおもうに違いない。猫でよかった。
(つづく)