号外-4
今年のはじめに、谷川俊太郎の自選詩集が出版されたのをひとにきいて、ちょっと迷ってから購入した(岩波文庫「自選 谷川俊太郎詩集」)。つき合いのようなものである。
ぼくが最初に手にした谷川俊太郎の詩集も、文庫本だった。岩波文庫に収録された年譜を見てみると、一九六八年にその文庫本が発行されたことがわかる。ぼくは、当時、初版本にしか興味がなかったから、もちろん、その本も第一刷だった(「谷川俊太郎詩集」解説=大岡信、角川文庫)。
そのとき、ぼくはいわゆる浪人一年生で、のんきに詩集など読んでいるどころはなかったのだが、いつもジーパンのおしりのポケットにつっこんでおいて、逃げたい気持が起きるたびに開いてみた。あろうことか、翌年も浪人生活を送るハメになり、角川文庫の谷川俊太郎はずっと尻のポケットについてまわった。そうして、大学入学後もしばらくはポケットに持ち歩いていたが、驚いたことに、やがて気づいたときにはすり切れてなくなっていた。
年末がきて第九が演奏されるころになると、かならず思い出す詩がある。思潮社から発行された「谷川俊太郎詩集 続」(一九七九年二月一日第一刷発行)を引張り出してきたので、ご紹介しよう。
ちびだった
金はなかった
かっこわるかった
つんぼになった
女にふられた
かっこわるかった
遺書を書いた
死ななかった
かっこわるかった
さんざんだった
ひどいもんだった
なんともかっこわるい運命だった
かっこよすぎるカラヤン
(「ベートーベン」ーー「その他の落首」所収)