綴じ込みページ 猫-109
まだまだ、「ミスター・ベンソン」。
予想もしていなかったことを聞かされた気分で、青年と別れると、窓から覗いてみた。黒い土の上に腹這いになった犬は、いつものように前肢に顎を載せて、いかにも無精たらしい恰好をしている。
窓ガラスを引開けると、犬は立上がってゆっくり近づいてくる。その頭を二、三度叩きながら、
「こら、おまえは強いんだってな」
と言うと、犬は首をねじるように振って甘えた素振りをし、
「このくらいで、もう・・・」
とすぐに引返してゆくと、また地面に寝そべった。この態度は、もう何年もつづいている。
犬の圧倒的な強さを聞かされたとき、血統書を探し出してみる気持になった。案外簡単に、それはヒキダシから出てきたが、精しく見るのは初めてである。
ミーヤには、もちろん、血統書などないけれど、動物保護指導センター発行の書き付けがある。
飼養者様
※平成22年8月12日に譲渡する猫の情報について(註:※印は原本では猫の掌マーク)
(1)平成22年5月7日当センターで所有者から引取り
日本猫 三毛 メス不妊済み 生年月日2006.4.2
(2)投薬記録:H22.5.20 3種混合ワクチン接種
〈猫の飼い主さんへのお願い〉
・猫を不幸にしないために室内飼育、不妊去勢手術を(ただし、当該猫は不妊済み)
・万一、迷子になったときのために、迷子札やマイクロチップ等で身元表示を
T市動物保護指導センター
担当 主任獣医師 N
医師の名前の下に、センターの住所と電話番号が書かれている。
ミーヤの写真も載っているが、うしろに黒猫の背中が三分の一ほど映り込んでいる。雑居房のようなところで撮られたのだろうか。
(つづく)