綴じ込みページ 猫-117

 事実は、大きく違っていたようである。そのあたりの消息は、詩人、ねじめ正一の「荒地の恋」という小説にくわしいらしい。らしいというのは、ぼくには怖くて読めなかったからだ。読もうとおもって購入したのだけれど、ぼくが知っている田村隆一が、ぼくの知らない田村隆一に変貌するのがこわい。その本を持っているのさえおっかなくて、年間二百冊は本を読破するという超読者家にそそくさと進呈してしまった。


 タケとチィは、争うこともなく、すぐ仲良くなり、十八年間生きて、相次いで死んだ。


 一羽と一匹は、庭の夫人が苗から育てた桜の木の下に埋められた。このことを田村は詩に書いている。
「チーコ タケ/チーコは仔猫になって永福寺あとの草原をかけめぐれ/タケ 小さな山の上を小さな羽根で飛び回れ」(『生きる歓び』)


 そして数年経ったある年の正月、近所の子どもが一匹の大きな、白地に黒いブチの猫をかかえてやってきた。
(つづく)